『§まっすぐに生きるのが一番』
「第32話:高校生の妹に嫉妬する私の心情」

 

 

哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。

 

 

前回、優花は家に来たおばあちゃんの“やさしい嘘”で、一つ屋根の下で家族の会話もなくバラバラになっていた家族が、絆を取り戻していっていることに気づいた。

 

 

あれからなかば家の問題児となっていた妹は、毎日の日課である夕方の柴犬の小鉄の散歩から戻ると、おばあちゃんの夕食を一緒に手伝うようになった。

 

 

と言うより、我が家の夕食のご飯の研ぎ方やおばあちゃん特製の料理も教えてもらい、そのおかげで炊きあがったご飯が数倍美味しくなり、家族の夕食は今まで以上に楽しい団らんの場になった。

 

 

やはり、優花が察した通り、妹がおばあちゃんから料理が教わると、書道教室へ持っていくために作っていた料理はぴたりとなくなった。

 

 

夕食後も、妹はおばあちゃんの部屋でおばあちゃん寝るまで、大学受験のための勉強をするようになり、その後も自室で勉強を続けているようだった。

 

 

おばあちゃんの“やさしい嘘”で、一つ屋根の下で暮らす家族でありながら、健全に機能していない機能不全家族と思えたのが、今では本来あるべき家族の団らんである絆を取り戻していたのだった。

 

 

おばあちゃんが来てから1ヶ月近くなったある日の休日、優花は妹が犬の小鉄の世話をする姿を何気に遠目で見ていた。

 

 

「鉄、今日はたくさん走ってたね。私が帰ろうって言わないと、ずっと走り回ってたんじゃない?そんなに走って疲れないの?鉄はすごいよね!“私もがんばらなきゃ!”って思っちゃったよ。鉄も散歩がんばってるから、私も勉強がんばるね。う~鉄はかわいいね」

 

 

優花は妹の小学生だった頃よく見ていた姿を重ね、微笑ましくなっていた。

 

 

「鉄~、チューして。チュー、もー鉄かわいい」

 

 

優花は妹のそんな姿を見ていて、ふと思った。

 

 

『私が社会人になった頃、妹は中学生になった。それからかな、私が妹とあまり会話をしなくなったのは。会社に入った頃は右も左もわからなくて、毎日新しいことを覚えることに必死で、自分だけで精一杯で妹のことも家族のことも見れない時期だったな。

 

 

思春期の頃って、子供から女性に変わっていく時期でもあるし、いろいろ考えて悩み多き時期でもあったけど、妹はどうしてたんだろう。小鉄のかわいがりようを見てたら、その間の孤独というのか寂しさを、まるで埋め合わせているかのようにも見える。

 

 

考えすぎかな。逆に私は妹のように、ここまで小鉄に愛情を注げる自分がいないかも。将来自分に子供ができたら、あんなふうに子供に愛情を注げてるのかな』

 

 

そんな将来の子供のことを思っていると、ふと哲也とはまだ深い関係になっていないことを思いながら、“哲也は今日何してるんだろう?最近デートしてもすぐに帰ってしまってるから、寂しい思いさせてるかもなー”と、胸の中が熱くなっていた。

 

 

「鉄、今度は鉄が私にチューね。もーペロペロはいらないの。鉄、ギューーー。鉄といると、幸せー。頭ぽんぽん、撫で撫で」

 

 

それを見ていた優花は、それがじゃれ合っているようには見えず、妹と小鉄がいちゃついてるように見えて、体が急に熱くなりだして妹に声を掛けていた。

 

 

「もうそれぐらいにしたら。小鉄も嫌がってるじゃないの」
「鉄、嫌がってた?そんなことないようね。いつもやってるもんね」
「ほら、早く手を洗って、勉強しなくていいの?」
「大丈夫、後でするから。それよりお姉ちゃん、なに怒ってんの?」

 

 

「えっ、怒ってないわよ。さっき覗いて、今見たらまだいたから」
「なんかお姉ちゃん、お母さんそっくり。はい、はい。鉄、最後のチュ。またお休みのチューしに来るね」
「もーなにしてるの、早く勉強しなさい。大学受験あるんでしょ」
「鉄、今日のお姉ちゃん、彼氏にデート断られたみたいで、ご機嫌な・な・め」

 

 

「そんなんじゃないわよ。それよりなんで“てつ(哲)”って呼んでるの。“小鉄”でしょ。勝手に名前変えられたら小鉄も戸惑っちゃうでしょ」

 

 

「ちゃんと小鉄って呼んでるし。“こ”が小っちゃくなってそう聞こえるだけ“こてつ”。ちゃんと“小鉄”って聞こえてるでしょ。犬は人間の数百倍耳がいいからこれでいいの。今日のお姉ちゃん、顔を赤くしてなんか変。鉄またねー」

 

 

優花は妹の後姿を見ながら、MAXになった怒りの矛先を誰にも向けられず、

 

 

「もーなんであなたは“小鉄”なの。はー、大人気ないね、私。小鉄はなにも悪くないのにね、ごめんね」

 

 

優花は自己嫌悪になってどっと疲れが出て、小鉄の前に座り込んだ。

 

 

「小鉄、私も頭撫で撫でしていい?10歳も年下の妹に嫉妬したみたい。笑えるよね。小鉄のてつは“鉄”なのに、哲也の“哲”って思ったみたい。あんまりあなたと妹が仲良いから羨ましくなっちゃたのかな。ほんとバカねー、私。

 

 

私、哲也が恋しいのかな。恋しくないと言ったら嘘になるけど、でも私が選んで今日は家にいたいって思ったわけだし、恋しかったら会ってたと思うし。小鉄、なんだろうね。哲也とあそこまでとは言わないけど、いちゃいちゃしたいけど。だからといって寂しくて仕方がないわけではないし。小鉄、なんで私あんなふうに言ったんだろうね、わかる?

 

 

あっ、そっか!私、あのとき小鉄と妹がいちゃつくの見てて、“哲也に寂しい思いさせてるのかな?”って思ったら、なんか哲也に悪いことした気持ちになって、いつも私、デートしても夕方に帰るから、それをあまり快く思ってない哲也の気持ちもわかってたし。

 

 

哲也に罪悪感感じてたのかな。でも、私、妹に嫉妬する気持ちもあったわよ。なんで嫉妬したんだろう。あっ、そっか!私が罪悪感感じてるところに、“てつ(哲)”って言ってるように聞こえて、さらにいちゃついてるの見てたら感情が高ぶって、現実と幻想の境がわからなくなって、まるで妹が哲也といちゃついている幻想に思った?

 

 

それに、本来私が哲也を構ってあげないといけないのに、それをできていない私の心の傷口に塩を塗られたように思ったから、それで腹が立ったのかな。

 

 

嫉妬って、罪悪感から来ているのかな?嫉妬する時って、自分は至らない女ってどこかで自分を責めてるのかな。だから、他の女性が彼氏を優しくしてると思うと、そんな至らない自分の気持ちに居た堪れなくて、感情的になって理性を失って腹が立つのかな。小鉄どう思う?

 

 

もうー私にまでペロペロしないの。でも、そんなふうに優しくされたら、私の気持ち持って行かれそうよ。そっか、妹が小鉄をここまで愛する気持ちがわかったわ。もし、小鉄が人間の男だったら、“女殺し”だね。“女殺しの小鉄”。ハハハ、任侠映画に出てきそう。

 

 

それより、これでまた妹と溝ができちゃったかもしれないな。せっかく家族団らん仲良くなれたのに。よし、これから謝って来るか。小鉄ありがとね。これからもよろしくね」

 

 

嫉妬は自分の中にあるネガティブな感情である、
自分自身を信じられない自分自身を肯定できない
『不安』が引き起こす。

 

 

その『不安』はときに言葉を変えて、
『独占欲が強い』という言葉の仮面を被る。

 

 

根底にあるのは、その『不安』が引き起こす、
自分自身の中にある『恐れ』。

 

 

『恐れ』の対極にあるもの、それは『』。
』は形がないものだけにわかりづらい。

 

 

だからこそ、愛に最も近い言葉である
ありがとう』『有り難い』という感謝の気持ちを
忘れないようにすることが大切。

 

 

当たり前が多くなった時代だからこそ、
いつも感謝の気持ちを大事に持ち続けたい。

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 

 

 

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