『§まっすぐに生きるのが一番』
「第92話:危ないひとりよがり…」

 

 

哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。

 

 

前回哲也は、『なにかのために時間を使うんじゃなくて、時間を消費するのが目的のような毎日』が多い中で、
日々の中での『有り難みや感謝』を持つことが、少しずつだが『なにかのために時間を使う』自分になっていったようだった。

 

 

今回は哲也が見た『危ないひとりよがり』について、優花に話をしたのだった。

 

 

 

「そうそう話が変わるんだけどさ、この間見た、あまりにもひとりよがりな生き方をしてる人が増えてるんじゃないかと、思ってさ」

 

 

「どうしたの。珍しいね。哲也がそんな話をするの」

 

 

「まあ、ちょっとやばいんじゃない、世の中って思ってさ」

 

 

「なにがあったの」

 

 

「この間さ、郊外に仕事に行ったときに、コンビニから出てきた時の話なんだけど。

 

 

コンビニの前の道は、片側一車線の道で、ちょうどコンビニの前がT字路になっていたんだ。

 

 

そこへ、右から救急車のサイレンが聞こえて来て救急車が来ると、どうやらT字路の方へ曲がるようで方向指示器を出して、片側一車線をまたいで右に曲がろうとしていたんだ。

 

 

左からは、けっこう車が流れていたんだけど、救急車が曲がろうとしているのに、止まらないんだよ」

 

 

「えっ、うそ」

 

 

「それがマジでさ。2台も止まらずに救急車の横を車が走り抜けたわけ。

 

 

運転している人を見てると、この辺りに住んでいるのか年配のおばさんだった。さらに、その後ろの運転手は女子大生風の女性。

 

 

どうみても右に曲がろうと赤色灯を回して止まっている救急車が目に入るはず。ヘッドライトも灯してたし、サイレンの音も聞こえていたはず。

 

 

それで運転手たちの顔を見ていると、どうみても前だけを直視して、周りの状況が目に入ってなかったように見えたんだよ」

 

 

「うそ、右に曲がろうと救急車が止まっていたんでしょう。赤色灯も回してるんでしょう」

 

 

「うん、回ってた。ほんとに目は直視して、目線が動いてなかった」

 

 

「そんなことあるの」

 

 

「マジだよ。ようやく後ろから来た車が止まって、無事救急車は右に曲がって行ったけどさ、なんかサイレンの音がわびしく聞こえたよ。

 

 

こんなことあっていいの!って。

 

 

ひとりよがりの運転にもひどすぎるじゃん」

 

 

「ちょっと常識では考えられない。車乗る資格ないわね」

 

 

「俺もそう思うよ。そのあと駅までの帰り道にふと思ったんだ。

 

 

自分のことを大事にすることはいいことだけど、自分よがりというか、このことだけじゃないけど、自分にだけ都合がよく、自分勝手な人が増えているのかなって。

 

 

気遣い、心遣いの思いやりの文化はどこにいったのやら。『おもてなし』が情けなくなるね」

 

 

「そうね、誰にも気兼ねすることなく、気を遣うことなく、好きな物を好きなことを、簡単に手に入れられるようになったからかもね。

 

 

いい意味での忍耐する精神の文化も、どんどん退行しているのかもね」

 

 

「それって、欲のままにほっするってこと?」

 

 

「そうね、ある意味、人は自分に都合のいいわがままになったかもね。

 

 

ものが豊かになって、精神の豊かさを求める時代になると、
ますます自分を自制する力が必要になって、自律して自立できる人が、
これからの時代求められてくるのかもね

 

 

「そうかもね…」

 

 

哲也は優花の言葉を聞きながら、ますます世の中の人々は二分化していくのではないだろうか。

 

 

哲也は、そんなこれからの世の中を危惧するのだった。

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
 

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