『§まっすぐに生きるのが一番』
「第91話:なにかのために時間を使うのではなく…」

 

 

哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。

 

 

前回、哲也はどこかで、『自分はこういう人間だからと決めつけて』生きていた自分を思い出していた。

 

 

それが、優花とそれ以上に優花のおばあちゃんとの出会いで、幸せについて、何十倍、何百倍、いや何千倍も、考えて生きるようになっていた。

 

 

哲也と優花は買い物が終わると、夕食を取るために創作居酒屋で食事をしていたのだった。

 

 

 

「哲也は私と会っていないとき、家でなにしてるの」

 

 

哲也は優花の何げない会話に、自分が休みの日になにをしているのか、すぐには思い出せないでいた。

 

 

「休みの日ね、朝起きて洗濯して、BGM代わりにテレビ付けて、スマホいじって、読み掛けの本を読んで昼寝して、かな」

 

 

そんなことを言っていると、隣のテーブルで先に食事をしている男性二人が、お酒もほろ酔い気分になったのか上機嫌で話しをしていた。

 

 

 

「お前さ、休みの日ってなにしてるんだよ」

 

 

「休みの日ね、朝起きて洗濯して、BGM代わりにテレビ付けて、スマホいじって、読み掛けの本を読んで昼寝して、かな」

 

 

哲也は自分が言った言葉がそのままそっくり聞こえて来たので、思わず隣の席を見た。

 

 

優花もあまりの偶然の会話に男性二人の方を向いていた。

 

 

 

「仕事は上手くいってんの?」

 

 

「まあ、ぼちぼちでんな」

 

 

「なんだよへんな関西弁つかって」

 

 

「日々仕事に追われての繰り返しかな」

 

 

「仕事に追われてるって、そんなのつまんないじゃんか」

 

 

「お前などうなんだよ」

 

 

「俺か、俺もお前と似たり寄ったりだよ」

 

 

「なんだよ人に聞いといて」

 

 

「最近さ、時間を消費することが目的のような毎日になっててさ

 

 

「それすごくわかるよ」

 

 

「だろう。なにかのために時間ってもんは使わないとな」

 

 

「最近忙しいのか」

 

 

「そういうわけじゃないけど、毎日が同じことの繰り返しって感じかな」

 

 

「まあな、仕事が慣れて来るとそんなもんだよな」

 

 

 

男性二人の会話を聞いていた優花が哲也に話しかけた。

 

 

「哲也はどうなの?」

 

 

「どうって?」

 

 

「時間の使い方。あんな感じ?」

 

 

「仕事は忙しいけど、結構楽しんで仕事してるかな」

 

 

「ふ~ん、どんな仕事してるのかな」

 

 

「さあ、でも気持ちわからないでもないかな」

 

 

「まあね」

 

 

「哲也も昔はそうだったの?」

 

 

「なにが」

 

 

なにかのために時間を使うんじゃなくて、時間を消費するのが目的のような毎

 

 

「そんな時があったかもね」

 

 

「ふ~ん、それでどうなって変わったの?」

 

 

「えっ、まあ、優花のおばあちゃんとの出会いが大きかったかな」

 

 

「例えば」

 

 

「例えば?いろいろありすぎてすぐには思い出せないよ」

 

 

なにかのために時間を使うんじゃなくて、時間を消費するのが目的のような毎日を、どうやって変えたの?」

 

 

「どうやってて、『感謝』かな。日々あたり前の中で、『感謝』することをしていなかったなって」

 

 

「『感謝』って大事だよね。あたり前にしていることでも、実は多くの人のおかげで成り立ってるもんね。哲也は偉い!」

 

 

 

優花はわざと隣の男性に聞こえるように、哲也との会話を楽しんでいた。

 

 

すると、隣の男性二人はその話を聞いていたのか、

 

 

「お前、最近『感謝』したことあるか」

 

 

「うーん、それが結構ないかも

 

 

「だよな。『感謝』ってあたり前のことだけど、案外してないよな

 

 

 

優花は隣の男性二人が話しているのを聞きながら、満足げにほほ笑んでいた。

 

 

「哲也、さっきおばあちゃんの出会いが大きかったって言ってたけど、それだけ?」

 

 

哲也は『えっ』と心の中で叫びながら、必死に優花の質問の意図に頭を巡らせた。

 

 

「もちろん、優花との出会いに『感謝』だよ」

 

 

「ふ~ん」

 

 

哲也は『質問の意図が違ったか!』と思っていると、

 

 

「私も哲也に『感謝』だよ」と言って微笑んだのだった。

 

 

 

哲也は時折放たれる優花との知恵問答に、神経を使いつつも無事クリアーし、

 

 

「あ~五臓六腑にビールが染み渡る」と言って、勝者の祝杯を上げた気分になっていたのだった。

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です