「ほろにがい失恋 前半」

 

彼女からの返答に、私は思わず「えっ」と言葉が付いて出た。私の記憶の中では、このような「えっ」と言ったのは、遠い昔のあのときに言ったほろにがい失恋の記憶だった。

 

あれは青春を謳歌していた大学3年生のときだった。季節は9月の中旬を過ぎた頃のように思う。

(この頃は、まだ携帯電話もほんの一部の人しか使っておらず、メールなんかもなくて直接相手の家に電話をするしかなかった時代である)

 

私は、この日も高校大学、アルバイト先も同じ親友が暮らすアパートに来ていた。

 

「前中、最近好きな(アルバイト先の)あの子とどうなん。デートにでも誘ったんか?」

「いや、まだそこまでわ。電話もしてない。」

 

「今から家に電話して呼び出して、そこで告白したらどないなん。」

「そんなことできるわけないやん。そんなん怖すぎるわ。」

 

「電話して呼び出したらいいだけやん。いつまで経っても進展せえへんぞ。」

「ま~それは…。どうしたらいい?いい方法あるか?」

 

「だから電話して呼び出して、そこで好きやって告白したらいいだけの話や。」

「簡単に言うな。それができへんから困ってるんやんか。」

 

「でんきんかったら、もう諦め。」

「いや!それは諦められへん。」

「じゃ、電話して呼び出して告白しかないやん。」

「無理や~。」

私とその親友は、そんなことを言いながら半時間を過ごしていた。

 

親友がおもむろに、

「前中。これから恋の大作戦や。俺がこれからシナリオを言うからその通りしたら間違いなく行ける。」と言って話し始めた。

 

「まず、これから彼女の家に行く。今日アルバイト入ってなかったよな。たぶん家にいるはずやから、何か理由つけて呼び出せ。」

 

「どんな理由で呼び出すんや。」

「渡したいもんとかがあるとか、何とか言ったらいいねん。」

 

「その具体的なもんがわからへんやん。」

「そんなん自分で考え。」

「とりあえず、あとで考えるわ。その先は。」

 

「おまえ、原付じゃなくてバイク(400ccの中型)乗ってるやん。家までバイクで行って、近くの公衆電話から電話して、『今家の近くに来てるから』って呼び出すやろう。

 

それで、出てきたら渡すもん渡したら、バイクのエンジン掛けて、去り際に彼女の下の名前、

『○○、俺おまえのことが好きや!』ってゆって、

彼女が告白されてびっくりして「えっ」と言っている間にバイクを走らせ帰って来る。

 

好きって言われて嫌な奴はおらん。告白された彼女は、帰ったあといろいろ考えるからおまえのことを好きになる気持ちも高まる。

 

それで、今度彼女がアルバイト入っているときに会いに行って、そこでデートの約束をしろ。そこで断られたらしょうがない。諦めろ。前中、これで完璧や!!」

 

「そんなテレビドラマのようなことできるわけないやん!!」

「絶対いける。大丈夫や。前中ならできる。」

 

「無理や!!絶対に無理や!!」

「じゃ~諦めろ」

「それも絶対にいや!!」

「じゃ~やるしかないやん。絶対いけるから!前中ならできるから!」

 

そんな押し問答を親友としながらも、高校時代のクラブの時も、

影でいつも励ましてくれた存在だったこともあって最終的には私は決意し、

この親友のシナリオ通りに彼女に告白するために、

フルフェイスのメットを被りバイクに跨ると、バイクを急発進させて颯爽と彼女の家へと向かったのだった。

 

次回6月20日(木)「ほろにがい失恋 後半」につづく

 

 

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