☆この物語は、男性のことが信じられなくなった一人の女性が、和尚との対話で自分を取り戻すお話です。

※この物語は経験をもとにしたフィクションです。登場する人物、団体等は実在するものとは関係ありません。

 

‐プロローグ‐

 

薄っすらと屋根に雪化粧。寒々とした黒っぽい瓦に、白い雪が冬の風情を醸し出している。

 

何百年続くお寺の本堂の瓦は、そんな白い雪で覆われていた。

 

「今年何度目の雪景色だろう。」と、住職の光曉(こうぎょう)和尚は呟き、「あの子は今頃どうしておるのか。あの子がここへ来た日もこんな雪の日だったな。」と、粉雪が舞う庭を眺めながら当時のことを思い出していた。

 

女の子が初めてここへ来た時、彼女は高校3年生だった。大人っぽくてかわいらしい女性だった。しかし、彼女は冴えない悲しげな表情をしていた。

お参りに来たわけでもなさそうな雰囲気を察した光曉和尚は、「寒いのにようお参り。」と、女の子に声を掛けた。

 

女の子は和尚の顔を見てホッとしたのか、「生きているのが辛いです。」と言った。

 

ただ事ではないと思った和尚は、冷静な面持ちで、
「さあさあ、寒いからそっちの温かい部屋でお茶でもいかがかな。そうそう甘いものもあるから、私も今からお茶を頂こうかと思っていたんで、一緒にどうかな。」と、女の子に声を掛けて暖かい母屋へ来るように促したのだった。

 

女の子は落ち着きを取り戻したのか和尚に、「小さいころからびっこを引いていて、みんなからからかわれて、男の子からは気持ち悪がれて。」と、下を向きながら自分の心情を打ち明けたのだった。

 

 

光曉和尚はその時女の子の足が治るかもしれないと、知り合いの接骨院を紹介してあげて、桜の咲く季節には見事女の子の足は普通に歩けるようになったのだった。

和尚は彼女がその報告に来て、嬉しそうにこの境内で飛び跳ねて、喜びに満ちた顔をしていたのを思い出していた。

 

それから10年後のある日、再び彼女が光曉和尚に会いに来た。

彼女は見違えるほど綺麗な女性になっていた。和尚は名乗られるまでその女性があの時の女の子とは分からないほどであった。

 

そして閉口一番彼女は、光曉和尚に言った。

「私、男の人が信じられない。」と。

 

つづく

 

 

 

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