Ⅱ.モテ期①

 

 

人里離れた町に、赤のストレートコートに身を包んだ女性が立っていた。町の誰かがその女性を見たら、都会から来たとわかるぐらい垢抜けて派手に映っていた。

 

その女性は、そこが目的の場所であると確認すると、石の階段を昇りお寺の境内へと入って行った。

 

彼女がここを訪れたのは、10年振りだった。あれから10年が経ったのかと思うと、懐かしさと悲しみが混ざり合って涙が出てきた。

 

すぐに彼女は涙を拭き、気持ちを立て直して光曉和尚を訪ねたのだった。

 

母屋の玄関に出てきた久しぶりに見た和尚は、彼女にとってあの時と同じ和尚だった。ホッと安堵感に包まれた彼女だったが、閉口一番に言った言葉は、ずっと心に思い溜め込んでいた「私、男の人が信じられない。」という言葉だった。

 

 

******

 

 

高校の卒業式が終わり桜の咲く頃、彼女は和尚から紹介してもらった接骨院で、痛く辛い施術の日々を乗り越えて、普通の人と同じように歩けるようになった。

 

彼女の未来は、まるで魔法が解けたかのように明るく輝かしい世界へと激変した。

 

彼女は、その年頃の女の子がするようにお化粧やファッションにも目覚め、おしゃれをして自分が女性であることを再認識したのだった。

 

仕事もファーストフードの正社員として働きだし、すべてが順風満帆だった。彼女はそこで働く男性陣からも優しくされて、初めて男を意識してか毎日ドギマギしながら働いた。それは彼女にとって、夢のようなバラ色の日々であり、人生初めてのモテキだった。

いつものように仕事が終わって街を歩いていると、男達から遊びの誘いの声を掛けられた。彼女は、仕事をし出してからこの手のナンパに何度も合うようになって、『またか』と思いつつ無視を決め込んだ。

 

彼女は一人の男を見た時、はっきりとわかった。それは、中学時代にいじめられた時の、いじめを先導していた張本人だったのだった。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

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