日陰③

 

高校へ進学した女の子は、さすがに今までのようないじめはなかった。彼女は初めて、友達というものに出会った。

 

高校生にもなると、特に女子の精神年齢がぐっと上がるのか、足のことを気にしてとやかく言う人はいなくなった。しかし、男子からの視線は、気持ち悪がられていると感じた。

 

 

女の子は、初めて女友達と映画を見たりショッピングに出かけたりするようになった。マクドナルドにも初めて行った。彼女にとっては、すべてが新鮮でありすべてが楽しい対象だった。

 

女友達とは、もっぱらアイドルの話やファッション、そして恋の話がほとんどだった。時たま勉強の話もするが、それは決まってテスト前に『どうしようか~!』というものだった。

 

 

女の子にとって、その友達の輪にいるだけで幸せだった。その輪にいて話を聞いているだけで楽しかった。彼女は足のことを除けば、普通の女子高校生と同じ生活を送っていた。

 

 

ある時女の子は、女友達から「もっとおしゃれしたらモテるで。けっこうモテ顔かも。」と言われびっくりした。今までそんなことを言われたこともなかったし、モテたこともなかったから、どう反応していいかわからなかった。

 

それでも嬉しかった女の子は、「でも、足がこんなだから誰も見向きもしないよ。」と言うと、急に会話が止まりその場が気まずくなってしまった。

 

女の子は慌てて笑顔を作ってその場を繕ったものの、それ以来誰も彼女に対して深く突っ込んで話をしなくなった。

 

女の子は、ここへきて自分の足がこのままである限り、恋愛も結婚も仕事も明るい将来なんてないと感じた。そんな思いのまま、彼女は高校3年生になっていた。

 

 

彼女は裕福な家庭でなかったので、はなからお金の掛る進学は考えていなかった。けれども、周りの友達がどんどん進学や就職が決まる度に、彼女にとって社会は自分を受入れるはずのない恐怖でしかなかった。

 

女の子は、母が一生懸命自分のために働いて高校まで出してくれた今までの期待も感じて、しだいに生きることが心の重荷になっていった。

 

とうとう女の子は、この重圧に耐えられなくなって家を飛び出した。とにかく少しでも遠くに逃げたかった。自分の死に場所を見つけるかのように、足を引きずりながら山里深く逃げた。

 

ふと気がつくと古いお寺が見えた。彼女は自分のこれからの過ちを乞うためか、お寺の境内へと入っていったのだった。

 

 

つづく

 

 

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