恋愛期②

 

 常連客の男性は、パチンコとスロットで生計を立てている通称パチプロだった。彼のトークは面白く、彼女は久しぶりにお腹から笑った。こんなに楽しい時間を過ごしたのは、いつ頃振りだったかと思い出せないぐらいに楽しかった。

 

彼女は、日頃飲まないお酒も楽しい雰囲気が飲むピッチを速めた。気がついた時には、かなり酔っぱらっていて、一人で歩くにはおぼつかない足取りだった。

 

彼女は、その男性に寄り掛かるように歩いた。とても安心感があって心地よかった。

 

彼は、そんな彼女にキスをした。彼女は生まれて初めてのキスだったが、楽しいお酒の酔いとキスの高揚感でさらに気持ちが開放され、彼女の方からも彼に激しくキスを求めていたのだった。

 

その夜、彼女は彼の家に泊まった。そして、初めて女をゆるしたのだった。

 

彼女はすっかり彼に陶酔した。彼女は初めて人を好きになった。男を好きになった。毎日が幸せだった。彼女は仕事が終わると、彼の家に入り浸りになった。そして、進んで彼の身の回りの世話をするようになっていった。

 

しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。

 

 

彼女は食事の用意をして待っていても、彼は帰ってこない日が増えた。酔っぱらって昏睡状態で帰って来ることも増えた。そして、女性の香水とわかる匂いを家に持ち帰ることもあった。

 

それでも彼女は、彼のことが好きだった。嫌われたくない一心で、彼のために尽くした。彼女は我慢して尽くしていたが、その我慢にも限界があった。

 

ある時、彼女は彼に言った。

「もう少し私との時間も大切にしてよ!」

 

「はあ、俺が好きに何をしようが勝手だろうが。こちょこちょ身の周りのことをされると、落ち着かねえんだよ。重いんだよ。ここは俺の家なんだ。好きにさせろよ。」

「ずっと迷惑だったの。」

 

「迷惑?おまえが勝手に転がり込んできたんだろうが。俺は俺で楽しんでるんだから、もう俺に構うな!」と言うと、彼女は堪えていた涙が溢れだした。

「女はすぐに何かあると泣きやがる。もうおまえの面もみたくねえ。さっさと出て行け。」

 

「好きな人でもいるの?」
「ああ、おまえよりいい女がな。」
「その女の人って、どういう関係なの。」
「おまえには関係ないだろう。」
「関係ないってどういうこと。」

「ああ、めんどくせ。彼女だよ!おまえが家にいるから彼女も呼べねえ。わかったらさっさと出て行け!」と言って、彼はベットに転がって寝だしたのだった。

 

彼女は傷ついた。ずっと信じていたのに裏切られた気持ちがショックだった。彼女は、少しでも早くこの部屋から出たいと思い、自分の荷物をまとめて彼の部屋を出て行ったのだった。

 

それからしばらくして、彼女は体調を理由にお店を辞めた。そして、以前大阪の梅田で声を掛けられた時にもらった北新地の名刺を取り出して、そこで働くことを決めたのだった。

 

 

「恋愛期③へ」つづく。

 

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