心のセラピー⑤

 

 和尚は、話し始めた。

 

『あなたは今振り返ってみた時、心の奥底ではいつも一人ぼっちという、孤独だったという感覚はなかったですか。』

 

『ありました。いつもどこかで孤独を感じていました。でも、いつしか慣れてしまって孤独ということを感じていないかもしれません。』

『今のあなたは、心では孤独でありながら、頭では孤独でないと自分に言い聞かせているのがわかりますか。』

 

『そんな気がします。』

『その孤独も、あなたは両親から、特にお父さんから学びました。今のあなたなら、お父さんがどれほど孤独だったか、どうしようもない罪悪感に苛まれた孤独だったかわかりますか。』

 

『ハイ。わかります。』

『今、あなたの愛で、そのお父さんの孤独を愛で包んであげることができます。やってみますか。』

 

『ハイ。やってみます。』

『では、目を閉じてもらってもいいですか。そして、目の前に孤独なお父さんを思い浮かべてみてください。お父さんは今どんな顔をしていますか。』

 

『とても寂しげで、うつむいています。』

『イメージを使って、あなたから近づいて行って、お父さんをあなたの愛で包んでもらってもいいですか。』

 

彼女は、イメージの中でお父さんに近づこうとしていた。そして、近づこうとすると彼女の目から涙が溢れ出してきた。そして、彼女は無意識に両手を伸ばしていた。

『お父さんを見てください。お父さんの中の孤独を見てください。誰にも気づかれずに、ずっとその孤独の中にいるのがわかりますか。そして、その中に一つの光があるのが見えますか。それが、あなただということがわかりますか。お父さんにとって、唯一あなたが孤独を救ってくれる光だったということがわかりますか。』

和尚はそう言って、側にあったクッションを彼女の胸に渡したのだった。

 

 

彼女はそのクッションを両手で掴むと、ギュっと強く抱きしめて大泣きをしたのだった。彼女はイメージの中で、お父さんを抱きしめていた。そして、大好きだったお父さんを思い出していたのだった。

 

光曉和尚は言った。

『お父さんが、どれほどあなたを愛していたのかわりますか。あなたがどれほどお父さんにとって愛おしい存在であったのか。そして、あなたの苦しみを自分ごとのように感じていたのがわかりますか。

 

お父さんが、成長した今のあなたを見てどんな顔をしているのかわかりますか。そして、お父さんがあなたの顔を見て、何を思っているかわかります。

 

そうです!“幸せになってほしい”と、心から願っているのがわかりますか。そして、あなたのことを“愛している”ということを。

 

今、お父さんに約束してあげてくれますか。“私は幸せになります!”』と。

 

彼女は号泣していた。そして、和尚も自分の娘のように泣いていた。

 

落ち着きを取り戻した彼女に向かって、和尚は静かに諭すように言った。

『あなたの心の戦争は、今日この瞬間終わりました。今日があなたにとっての、愛される存在であることを思い出し、幸せになるための終戦記念日です。あなたは自由です。これからは平和で幸せな未来が待っていますよ。』と。

 

 

「エピローグ」へ

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です