20140414やる気

 

 

やる気にさせる必要はない!(第⑨話)

 

 

“こどものこころアドバイザー(心理セラピスト)”の
前中 光曉(まえなか こうぎょう)です。

 

 

和尚は、俯く娘さんを見たまま、言葉を失ったかのような
お母さんに、優しく語りかけた。

 

 

「お母さん、お母さんは娘さんから、ずっと愛されていたことを
知っていましたか。娘さんは大好きなお母さんのために、一生懸命
期待に応えようしていませんでしたか。

 

 

でも、娘さんは、ある時、お母さんの力になりたいと思いながらも、
期待に応えられない自分の無力さを知って、自分のせいだと思い込ん
でしまいました。

 

 

それは、そうですよね。娘さんは、まだまだ大人のように力のない
子供でしたから。

 

 

それでも娘さんは、お母さんのために頑張ってきましたよね。
勉強もそうです。そうして、頑張って大学に入ったんじゃないですか。

 

 

今、お母さんに必要なことは、娘さんを心の底から理解してあげる
ことです。お母さんにとって、大切な娘さんだからこそ、今、理解
してあげてほしいのです。今、私から、お母さんが感じたことを含めて。

 

 

 

(娘さん)今までずっと我慢してきてつらかったね。
ずっと自分を責め続けてきたんだね。お母さんがあなたのために、
いつも一生懸命だってことを知っていたから。

 

 

だからずっと自分のせいだって。そして、もっと頑張らないと、
と思って、一生懸命勉強して、頑張ってきましたよね。

 

 

あなたは繊細で、心優しい頭のいい人です。だから、気づいて
いましたよね。お母さんも、あなたのことで、ずっと自分を責め
続けてきたことを。

 

 

あなたは、もう子供ではなく、大人になりました。
あなたは、とても賢い芯の強い心の優しい女の子です。

 

 

今日、あなたのその優しくて強い心で、あなたの大好きなお母さんを、
あなたからゆるしてあげてくれますか。

 

 

誰が悪いわけでもありません。
すべては、よかれと思った誤解からはじまっただけなんです」

 

 

和尚が娘さんを見ると、娘さんは優しい瞳を真っ赤にし、
その目には光るものがあった。

 

 

お母さんは、俯いていた。その姿は、まるで娘に取り返しの
つかないことをしてしまったかのように。

 

 

娘さんは、お母さんに寄り添っていった。
そして、お母さんの背中に手を掛けて言った。

 

 

「お母さん、ごめんね、心配ばかりかけて」

 

 

その声を聞いた瞬間、お母さんは、堰を切ったように
声を上げて号泣したのだった。

 

 

その側で、お母さんの泣く声を聞いていた娘さんの表情は、
だんだんと真っ赤になり、それはまるで今まで泣くことも
我慢していたかのような顔で、

 

次の瞬間、今まで我慢して溜め込んできたものを弾けさせるように、
彼女も堰を切ったように、大声を上げて泣いたのだった。

 

*******

 

 

数年後、いつものように作務衣を着た和尚は、
境内の草むしりをしていた。

 

 

そこへ、あの時の娘さんがやってきたのだった。

 

 

「和尚さん、覚えていらっしゃいますか。あのときの私です」
「さて、えっ、ほー見違えるほど、その、綺麗になって。
あのときの面影がなくて、思い出すまでに時間が掛ってしまいました」

 

 

「和尚さんのおかげです。今日は報告に来ました。
私、今年の秋に結婚することになりました。母は相変わらずですが、
あれから私の話をよく聞くようになって、優しくなりました。
おかげで今も仲良しです」。

 

 

和尚は、彼女の幸せそうな笑顔を見ながら、
当時のことを思い出していた。

 

 

『親は、わが子かわいさのあまり、よかれと思って知らず
知らずのうちに自分の価値観を押し付けてしまい(コント
ロールしてしまい)、それが、子供の可能性を小さくして
しまうことがあるのだな。

 

 

自分を信じ、相手を信じ、そして共に学び成長する。
もっともっと、楽で簡単に学び合える世の中であってほしいものだ』と。

 

 

和尚は、彼女の幸せそうな笑顔をみながら、
『世の中にこの笑顔を超えるものはないかもしれないな』と、
思ったのだった。

 

 

おしまい (このお話は、事実にもとづくフィクションです)

 

 

いつもお読みいただきありがとうございます。

 

 

 

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