「人間関係からの安心よりも自分の強さの果てに③」
『§まっすぐに生きるのが一番』
「第24話:人間関係からの安心よりも自分の強さの果てに③」
「§哲也の秘密」
彼女からの質問に値踏みされていると感じた哲也は、この際はっきりさせようと自分史を話し始めた。
「僕は静岡県の浜松市の出身。と言っても住んでいた頃は引佐(いなさ)郡引佐町。今年の大河ドラマ井伊直虎の舞台になっている辺り。今は浜松市に併合されてるから浜松市と言ってる。兄弟はいない。親父は町工場を営んでいたがバブルが弾けると経営が悪化し、それからはお酒に溺れ、家で暴力を振るうようになった。
それから辛い毎日が続いたが、僕が13歳の時に急死して倒産。それを機に母と静岡市に移り住み、母は工場の事務員として働いていたが、病気がちだった母も僕が高校3年生の冬に病気で亡くなった。高校での成績は良かった方で大学に進学しようと思っていたが、母の死で一時は大学進学を諦めたが、母が生命保険に入っていて大学4年間分の学費を払えるぐらいあった。
大学に行くか迷ったが、僕が大学へ行くのは母の念願だったから、そのお金を使わせてもらって東京の明洋大学の理工学部に入った。私立の理系は学費が高いから、生活費はアルバイトをして稼がないといけなかったけど、大学へ行けるだけで有り難かったから苦ではなかった。大学院へ行きたかったが、さすがにお金がなかったので今の会社に入った。
そこで先輩と出会って、先輩は大学院卒だから大学院に行けなかった分知識を得ようと独学でも必死に勉強したかな。知識を得ようとすれば自分にその気さえあれば勉強できると思う。今となっては大学院に行った方がよかったのかどうかよくわからないけど、出世が望めないのは確かかな」
哲也の長い打ち明け話の間、彼女は一言も口を挟まずに、興味深そうに聞き入っていたが、話が終わった今、彼女が何を言うかと思って待っていると、
「哲也さんの強さの秘密がようやくわかりました」と意外すぎる言葉が彼女から返ってきた。
「えっ、強い?僕が、ですか?」
「ええ、そうです。おそらく私が今まで出会ってきた中で、一番の強さを持った人だと思います」
なにが彼女にそう思わせたのか、彼女から褒められたようで嬉しい気もちになる。自分よりも精神的に脆い人間は、確かに大勢いるかもしれない。だからと言って・・・、
「私もよく『優花は強いね』って言われるんです。実際は単に感情表現が下手なだけなんですけど。感情的になることがないから、周りからはそう見られていて、それだけで精神的に強いのだと思われているみたいです。私にそう言う人は、私よりも精神的に弱いと本人は認めている。
そうじゃない人はいないのかな、私よりもこの人の方が強いって思える人がどこかにいないかなって、たぶんずっと心の中で思ってきたんですね。そのことに先週気づかされたんです。哲也さんに出会って」
「失うものがないっていう意味では、やけっぱちの強さみたいなものはあるかもしれないですけどね」
意外すぎる彼女の話の展開に、哲也はそう答えるのが精一杯だった。
哲也は今の自分を振り返る。友人や恋人を努めて作ってこなかったのも、自分がさまざまなものを失った代わりに得たその「強さ」を、失いたくないからと思ってきたのだろうか。友人や恋人からの裏切りを、友人や恋人を作らない限り、その得た「強さ」を維持できると思ってきたのだろうか。
人間関係からのやすらぎよりも、自分が得たその「強さ」を優先できるのも、その自分の「強さ」がなせる業なのかもしれない。でも今さらその「強さ」を簡単に手放せるはずもない。今そこに優花という存在が割り込もうとしている。
彼女は少なくとも自分に好意を持っている。一番強い人に出会ったと言っていたのだ。彼女の強いって思える人は、この自分だと言っているのだ。
胸の中の希望の炎が熱く燃える。彼女を恋人にできるためだったら、自分の「強さ」なんかどうでもいい。もし優花を恋人にできたなら、自分の今の「強さ」を失ってもいい!
いや、待てよ。そうか。この先にこんな罠が待ってるのか。
つづく。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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