『§まっすぐに生きるのが一番』
「第34話:会えないイライラ、依存している自分」

 

 

哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。

 

 

前回は、優花が夢の中で飼っている犬の小鉄が人間になって、ほめるとは、相手の価値を見て伝えること。すなわち『ほめ上手な達人』とうお話をしました。

 

 

今回は、恋人の哲也が優花と会えないイライラと依存の関係についてお話したいと思います。

 

 

 

4月になり、哲也の会社にも新入社員が入って来た。哲也は新入社員の指導と言う立場で、一人の新入社員を担当していた。

 

 

「先輩、最近仕事ばっかりで、彼女ともなかなか会えずパッとしませんよ」

 

哲也はそれを聞いて、思わず『俺もだよ、その気持ちわかるよ』と言いそうになった。

 

 

「彼女と遠距離か?」
「いえ、同じ東京なんですが、住んでるところはけっこう離れてて。学生時代は自分は下宿していて、大学と彼女の家がわりと近かったもんで、けっこう会ってたんすよ。こうなることはわかってたんですけど、いざ働いてみると、寂しっすよね」
「まあ、それが社会人になるってことだよ」
「そうっすね、あ、だから結婚するんですかね。先輩も結婚してるんすよね」

 

 

「独身」
「彼女さんは?」
「まあいるけど」
「よく会われてるんすか?」

 

 

「まあ、会ったり会わなかったり」
「よく我慢できますよね、寂しくないんすか?」
「まあ一人も気楽だけどね」
「へー俺にはまだその域はわかんないす」

 

 

哲也は強がりを言っていることがわかっていたが、どう返したらいいのかわからず、無難に答えておいた。

 

 

「まあそのうち慣れるよ」
「えー慣れるもんすか?」
「そうやって孤独に耐えて強くなって行くんだよ、人は」
「そんな強さ、俺はいらないすけど。やっぱり会いたいすよ」

 

 

「こっちが会いたくっても、向こうが会えないときもあるんだよ!そんなに会いたけりゃ同棲でも結婚でもすればいいじゃいか」
「そこまでは、まだ会社入ったばっかだし、もう少し先っすよ。それより、先輩彼女さんと会えてないんすか?」
「おまえにそんなこと関係ないだろう!」
「俺、なんかへんなこと聞いちゃいました?」

 

 

哲也はだんだん面倒臭くなってきたのと、恋人の優花とほとんど会えないことへの不満から苛立ってきた。

 

 

「おまえの恋愛はまだまだ学生の恋愛。社会人になったら大人の付き合い方ってもんがあるんだよ。そもそも彼女と会えないからって、ちょっと彼女に依存しすぎてるんじゃないのか」
「俺が彼女に依存すか。逆っすよ。彼女が俺に依存してる感ですけど」
「だったら、会いたい、会いたいって、言葉出てこないけどな」
「そんなもんすか。やっぱ大人の恋愛って、心が大人なんですかね。彼女が俺に依存してるとばかり思ってましたけど、俺も彼女に依存してたんすね。難しいですけど、何かやっぱり先輩は大人の男って感じすもんね。勉強になりました。またいろいろ勉強させてください」

 

「恋の勉強もいいけど、早く仕事も勉強して覚えないとな」
「はい、頑張ります!」

 

 

哲也は体裁を整えるために先輩風を吹かせたものの、
『俺が優花に依存してたんじゃないか!

 

 

おばあちゃんが来てからというもの、会えても夕方のご飯を食べる前までとか、今度いつ会えるかもしれなとイライラして。

 

 

それで彼女と会えないから、寂しくて?自分の心が満たされなくて?それを優花から満たしてもらいたいと思ってた、俺?

 

 

確かにそんな俺がいて、腹が立つ自分がいて、それで優花から会いたいと電話があったら、“ちょっとその日無理”と予定もないのに、意地悪したくなる自分がいたりして。

 

 

“ごめんね”という優花からの言葉が聞きたくて。

 

 

“俺は寂しい思いをしていたのだぞ!”と言う気持ちを慰めてくれるまで。

 

 

それって、“優花がいない人生は俺の人生じゃない!”って感じ?

 

 

優花が自分に合うように振る舞い、行動してくれると、最高の彼女?

 

 

それが適わないとイライラして、怒る。

 

 

優花はどうなんだろう?俺に依存していない?

 

 

楽しくおあばちゃんたちと楽しんでる?

 

 

俺が別にいなくても大丈夫?

 

 

俺は必要ない?このまま見捨てられる?

 

 

えっ、怖い怖い・・・どうしようと思い不安に押しつぶされそうになり、パニックになる?

 

 

そして気がつけば、優花に何度も電話して、自分の不安が治まるまで。

 

 

また不安になったら何度も電話して、それでも不安が消えないと優花に会いに行きたくなる?

 

 

そして、俺は優花にべったり纏わりつくような、精神的にも優花にぶらさがっているような感じになって、“重い”とだんだん優花の心のスペースが窮屈になって。

 

 

“窮屈”だと遠ざけられると余計に不安になって纏わりつく。

 

 

時に切れられると、それも余計に見捨てられるような不安になって、自分の気に入らない振る舞いや行動を正すからと、見捨てられないようにいつも優花の顔色を窺って他人に自分軸を合わせて生きる。好きな人であればあるほどに・・・。

 

 

会えないイライラが、こんなにも優花に依存する自分がいるなんて。

 

 

どうすればいい、俺?このままでは、遅かれ早かれ嫌われる・・・』と、後輩の言葉に腹を立てたことを通り越して、哲也は不安になったのだった。

 

 

つづく。

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
 

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