「桜色の季節と浮気心」
『§まっすぐに生きるのが一番』
「第35話:桜色の季節と浮気心」
哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。
前回、哲也は優花と会えないイライラが、優花に依存している自分がいて、優花に会えない不安から自分の行動がどんどん相手の重荷になり、
相手から煙たがられないように、見捨てられないように、いつも優花の顔色を窺って相手に自分軸を合わせて生きる。
そして哲也は、『このままでは、遅かれ早かれ嫌われる・・・』と、不安に思ったのだった。
今回、哲也はその不安から逃れるために、その不安を払拭するために、さらに妄想とも言える思いを膨らませたのだった。
『せっかく出会った優花との恋。運命とも思えるこの恋。このままでは、終わってしまう』と、哲也の心はますます不安に押しつぶされそうになった。
人はこんなとき、心が押し潰されそうになった不安を払拭するために、その不安な気持ちと同じぐらいの楽しいこと、幸せに感じることを考えたりするものである。
哲也は不安という闇に覆い潰されそうになっていた。そんなとき、一縷(いちる)の望のように哲也の思考に光が差した。
それはその不安と言うべき優花と向き合おうとする思考ではなく、安易な下心の思考だった。
新入社員が入って来る桜の季節。淡いピンク色の桜の花々が、恋心をくすぐる。
哲也の思考は、会社の事務室で働く後輩の小野香織のことを思い出していた。
彼女は、明るくて気立ての優しいよく気の付く独身の女性だった。哲也は彼女とのある会話を思い出していた。
「哲也さん、お昼今日はなにを食べたんですか。また炭水化物コースですか?だめですよ、カレーライスにうどんばかり食べてたら。夜も寮にいるときは食堂があったからよかったけど、コンビニ弁当とか食べてるんじゃないんですか?」
「わかってるんだけど、昼休みの時間になかなか食べに行けないから、定食も残ってなくてさ。ついお腹いっぱい食べたくなってね。夜もそんなところかな」
「ダメですよ。お腹も出てきて体も壊しますよ」
「そうなんだよな、炭水化物が続くと腹が出て来るんだよな」
「だめですよ。結婚前にお腹が出ておじさん腹になったら、女性に嫌われますよ」
「えっ、これぐらいだったら大丈夫かな?」
「ちょっと黄色信号ですね。健康診断だったらメタボって言われるかも」
「旨いもん食べてメタボならいいけど、炭水化物でメタボはやばいな」
「ハハ、そうですよね。美味しいものばかり食べてが、カレーライスとうどんじゃね。栄養も偏ってるんじゃないですか?野菜とか取ってます?夜も一緒にサラダとか買って食べてますか?」
「いやーサラダはほとんど買ったことがないな。たまに気が向いたときに野菜ジュースを買って帰るぐらいかな」
「ダメですよ。栄養偏っちゃいますよ。炭水化物ばっかり食べてたら、栄養失調になって倒れちゃいますよ」
「栄養失調?そうなるの?やばいな、倒れた原因が過労だったら同情の余地もあるけど、栄養失調ではみんなからの笑いもんだよな」
「私は笑えません」
「えっ」
「哲也さんがいないと、この部署も回らなくなってしまうし、工場も大きな痛手になります」
「俺がいなくても、俺の代わりなんてたくさんいるし、いなくなったところで仕事が回るのが会社ってところだよ」
「違います!哲也さんが主任になってから仕事もしやすくなったし、ロスやミスも減り生産性が上がり利益率にも表れてます」
「俺一人の力じゃないよ。みんなが頑張ってるからだよ」
「違います!!哲也さんのマネージメントがきちっとできてるから、だから哲也さんに倒れられたら困るんです。だからきちっとちゃんと栄養のある食事をしてほしいんです。炭水化物ばかり食べてたらダメです。毎日そんな食事見てたら、私が毎日お弁当作って来てあげたいぐらいです」
「あ、ありがとう。気をつけるよ。あ、工場の方へ行って来るよ」
「いってらっしゃい!!」
哲也の思考は、自分のことを気遣ってくれる後輩の小野香織の優しくて家庭的な母性に癒されたい気持ちに満たされていた。
頭の中で何度も響き渡る心地よい言葉、
『私が毎日お弁当を作って来てあげたいぐらいです。いってらっしゃい!!』と、彼女の怒ったような言い方が自分のためだけに思って向けられたことに、哲也は彼女を一人の女性として見ている自分がいた。
『今まで近くにいたせいか気づかなかったけど、小野は俺のことをそんなふうに見ていたんだ。しっかりしてるし、家庭的なところもあって、優しいし、俺を、幸せにしてくれるかもしれない…』と哲也の心が揺れていた。
気がつくと哲也のイライラも不安もどこかへ飛んでいて、楽しい幸せな気分に包まれていた。
そんな余韻に浸っていると、得てしてこのタイミングで携帯電話が鳴るのである。
哲也は携帯のディスプレイを見ると、優花からの電話だった。
哲也は浮気をしていたことがばれたような罪悪感に苛まれた気持ちになりながら、なぜか目に見えぬ相手に襟を正すように床に正座をして電話に出た。
「もしもし、久しぶり~」
「うん、久しぶりだね。今日はどうしたの?いつもは“ハイ”って電話に出るのに」
「そおう、久しぶりだったから、テンション、上がったのかも」
「へー哲也って、そんなキャラだったっけ」
哲也は携帯から伝わる冷たい変な間に、床に正座の姿勢で壁の一点を見つめたまま、優花からの次の言葉を、戦々恐々と待った。
「ふーん、会えなくて寂しい思いさせてたから、浮気でもしちゃった?」
優花からの言葉の豪速球に、哲也は床に正座したままお尻をぴくんと浮かせたのだった。
つづく
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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