『§まっすぐに生きるのが一番』
「第58話:一歩踏み出すと見ている風景が変わる」

 

 

哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。

 

 

哲也は、『“和”を“なごむ”と言うよりも“個”を“なごむ”と言った生き方』の優花のおばあちゃんの言葉を聞きながら、自分を振り返っていた。

 

 

優花に出会うまでは、『人間関係からの安らぎよりも、自分の強さ』を優先して生きていた自分。

 

 

それが優花と恋人同士の関係になり、そこに優花のおばあちゃんと関わることで、哲也は知らず知らずの間に自分の価値観が磨かれ、

 

 

今では、『自分の強さを守るよりも、人間関係からの安らぎを得る』ことを大事にするようになっていた。

 

 

 

「なに考え込んでるの?」

 

 

「いつもながら、おばあちゃんの話が強烈すぎてね。いろいろ考えさせられるなって」

 

 

「そうね、私もおばあちゃんが家に来てからずいぶん変わった気がする」

 

 

「そうだね、“和”を“なごむ”と言うよりも“個”を“なごむ”生き方になってきてるって、今の世の中を見渡したら的を得てるよね。

 

 

やっぱり環境と言うか、世の中が豊かになりすぎたのかなって。

 

 

この間、副工場長が話していたんだけどね。この夏休みに大学生の娘さんがフィリピンのミンダナオ島に、約3週間研修旅行に行ってたみたいで。

 

 

現地の村の小学校に行って、日本語の授業などを教えながら一緒に授業に参加してたみたいなんだけど。

 

 

その娘さんは子供好きだったからすぐに子供たちと打ち解けて、とても楽しかったみたいだったけど、一緒に行った女の子の中には、日本では考えられないカルチャーショックを受け子もいたみたい。

 

 

衛生面もさることながら、特に食事が合わなくて、ホテルの物も無理みたいで、ハンバーガーやスーパーで日本製のカップラーメンばっかり食べてて、体調くずした大変な子もいたみたい。

 

 

副工場長の娘さんも食事では食べる物が偏って、ぎりぎりでやばかったみたいだったって。

 

 

日本に帰ったらまず食べたいと思ったのが、から揚げだったみたいで、空港についたらそくコンビニに行って食べたらしいよ。

 

 

それで副工場長が、娘がまたその村に行ってみたいって言ってたんだって。

 

 

そしてその娘さんが、

 

 

『はじめはフィリピンは貧しい国だって思ってたけど、帰る頃になると、フィリピンが貧しいのではなくて、日本が豊かすぎる』って。そう思えたんだって。

 

 

なにか大きな体験をして、帰って来たんだろうね。

 

 

副工場長も帰って来た娘さんを見た時、顔が別人のように自信に満ち溢れたようなスカッとして生き生きしてたんだって。

 

 

その話を思い出してて、環境が人を変えるのかなって。

 

 

もちろん自分自身が目の前の現実を受止めないと、自分が変われないのは知ってるよ。

 

 

だけど、“個”を“なごむ”と言った生き方する日本人、いや先進国の突き付けられた問題かもしれないけど、

 

 

自分自身と向き合い考えることも大切だけども、

 

 

もっと大切な『一歩踏み出すこと、そうすれば見えてくる景色が変わる』ってことが大切な気がしたんだ。

 

 

日々の生活に追われて流されて生きてると、不安や心配事しか出てこないのかなって。

 

 

そうだよな。何も変わらない日常を過ごしていたら、それ以上の楽しいことやわくわくすることなんかよりも、不安や心配事の方が多くなって当然だよね。

 

 

だから不安や心配事を自ら打ち消してくれるのは、一歩踏み出す行動かもしれない。

 

 

自分自身と向き合うことも大事だけど、その前に一歩踏み出して見えてくる景色、環境を変えることが大事なのかと、副工場長の娘さんの話を聞いていて思えた。

 

 

そうじゃないと、『生きる答え、自分にできる答え、今の自分を変えれる答え』を見つけないと行動できなくなってしまう

 

 

 

哲也は一人であれこれ考え癖がついている自分に気づき、自分に言い聞かすように“一歩踏み出す”ことを強く思った。

 

 

そして、「今度久しぶりに二人でどこかへ出かけない」

 

 

「そうね、最近ずっとおばあちゃんと一緒にいることが多かったから、久しぶりに二人の時間も大切にしたいね」

 

 

「じゃ決まりだ。美味しいもの食べに行きたいね」

 

 

「えっ、それは私のセリフだったんだけどな」

 

 

「じゃお互いが美味しものを食べれる候補を探して、それで決めよう」

 

 

そう言って哲也は、副工場長の娘さんの生き生きしている姿に思い浮かべながら、心の中でくすぶっていたなにかに火が付いたのだった。

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 

 

 

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