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第五話『手からこぼれ落ちた幸せ』

 

 
 
  二人は時間があるとき頻繁にメールをするようになっていた。二人を呼び合う名前も「健太さん、恭子ちゃん。」と呼び合うまでになっていた。恭子は健太郎とメールを交わす度に、水曜日までとても長く感じて健太郎ともっと早く会いたいという想いが募って行った。

 

 
恭子は健太郎の素朴なメールの中に、とても自分を大切にしてもらっている気持ちが伝わって来て、それだけで幸せを感じられた。

 

 
恭子は健太郎とのこれからのことを考えただけで楽しくなり、そんな空想する時間がとても幸せだった。早く水曜日になることがこれほどまで待ち遠しい気持ちになったのは、本当に久しぶりのことだった。

 

 
 二人のメールのやり取りは、それほどまでに二人の気持ちを素直にさせ安心させるものだった。そして、ようやく待ちに待った水曜日が訪れたのだった。

 

 

 
 
  恭子はいつもより早く目が覚めた。いつもはここからグダグダとベッドの中にいるのだが、今日はさっとベッドから飛び起き、健太郎からのメールを読み返しては今日の夜に会える喜びでドキドキしていた。

 

 
恭子はおもむろに部屋の掃除をし始めた。掃除が苦手で部屋はいつも服や雑誌で散らかり放題なのに、今日の恭子は掃除が趣味であるかのように楽しげだった。

 

 
準備をする時間が近づくにつれて、恭子はドキドキして居ても立っても居られない気持ちに駆り立てられた。

 

 
しかもそわそわとじっとしていられない気持ちが、散々昨日の夜に今日来ていく服を吟味したはずなのに、また何を着て行こうかと迷い始めて、結局は最初に決めた服に落ち着いたのだった。

 

 
恭子は余裕を持ってシャワーを浴びた。ヘアーもメイクも納得いく状態に仕上げた。準備万端整っても何度も何度も鏡を見ては、高ぶる気持ちを抑えていた。その時、メールの着信音がした。メールを見た瞬間恭子の顔から、笑顔が消えたのだった。

 

 
 
  メールの相手は、元カレだった。元カレからのメールには、
 『恭子久しぶり。あれからいろんな女と付き合ったけど、お前が一番やったと気づいた。反省してる。もう一度やり直したい。お前がいないと俺はやっていけない。今日の夜7時にいつも待ち合わせてた駅前広場で待ってる。来るまで待ってる。』というものだった。

 

 
  恭子は、メールを読んだ時心が揺れた。今更と思いつつも、反省していると言う言葉に、彼には私が必要なんだという思いに、恭子の心は元カレ引き寄せられた。

 

 
そして、健太郎には私よりもずっといい人が似合うという思いが頭をよぎった。鏡に映った自分の姿を見て、それは一生懸命おめかしをした健太郎に会うためのものだった。

 

 
その姿を見て、少し無理をして背伸びしている自分がよぎり、そのことはまた恭子の心を元カレの方に揺れ動かした。健太郎に会うために過ごした日々が一瞬頭をよぎったが、恭子の気持ちはもう一度元カレとやり直せるという思いが強くなっていた。

 

 
恭子は玄関を出ると、その足は駅前広場へと向かっていた。もう一度元カレとやり直すために。私がいないと彼はダメなんだという思いに駆られて…。

 

 
 つづく。

 

 

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