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「子供が本当にほしかったもの 前編」

 

このお話は、このテーマをもとに書き下ろした創作文章です。何かの学びや気づきになれば嬉しく思います。

 

 

今日は、陽介にとって待ちに待った初デート。 恋人のこころの直感で、この猛暑に場所は遊園地だった。

 

陽介こと金田一陽介は、都内の会社で働く普通のサラリーマン。恋人の明智こころも都内で働く普通の会社員。二人は、偶然観に行った映画で隣り合わせになり、意気投合してそれから付き合いが始まったのだった。

 

二人の名前から、金田一耕助と明智小五郎に関係があるのかと連想するところだが、二人ともそこのところは、両親からどうも違うようだと聞かされているようだった。

 

 

遊園地のゲートで待ち合わせた二人、先に来ていたのは陽介だった。

と言っても、ほんの10分先に来ただけだった。

 

「陽介お待たせ~。」と声のする方角を振り向くと、笑顔のこころの姿があった。

 

陽介はこころを見つけた瞬間、じっとこころを見つめたままの状態になっていた。

そんな陽介の姿に「も~、そんなにじっと見ないでよ~。」というこころの笑顔に、

「マジかわいい」と、陽介は真顔でつぶやいていた。

 

こころは陽介からの予期せぬ歓迎に「今日はやけに暑いね~。」と照れながら、

手のひらで顔をパタパタと扇いでいた。

 

 

遊園地の中に入ると、夏休みの週末とあってか家族連れやカップルで賑わっていた。

 

「陽介なにに乗る?」

「そうだな~あれにしよっか」と、二人は遠くに見える絶叫マシンを見つけていた。

 

二人にとって遊園地は久しぶりだった。童心に戻った二人は心躍らせながら、屋台の食べ物やグッズを売っているお店に後ろ髪を引かれながらも、目的地に向かって歩いて行った。

 

ふと二人を引き止めたものがあった。

 

それは、楽しいはずの遊園地にあって、不安な顔をした母親と今にも泣きそうな小学校2年生ぐらいの男の子が、必要以上にしきりになにかを探すように辺りを気にしていた。

 

二人は直感的に「もう一人の子供が迷子になったんだな。」と思い、気がつけば二人は親子に近づき声を掛けていた。

 

「どうしたんですか。ひょっとして迷子になったとか。」 陽介がそう尋ねると、

母親は一瞬困惑と迷惑そうな顔をして目線を逸らせた。

 

すると、小学校2年生ぐらいの男の子が、「妹の愛がいなくなって。」と言うと、

「そんなことは言わなくていいの!」と、母親はぴしゃりと男の子に言った。

 

陽介は間髪入れずに言った。

「お母さん!妹さんが迷子になったのは事実でしょう!まず、探すことが大事じゃないですか。お手伝いしますから、一緒に探しましょう。」と言うと、母親は、

「大丈夫ですから。私たちでなんとかなりますから。」と断って来た。

 

陽介は男の子の不安げな顔をみていると、いても経ってもいられなくなり、母親をなんとか説得すると母親はしぶしぶうなずいたのだった。

 

陽介はこころの方を見ると、こころは目をキラリと光らせ当然のようにうなずいた。

 

 

「お母さん。まず、迷子センターへ行きましょう。それから妹さんが行きそうなところを探しましょう。ところで、妹さんの特徴を教えてください。」と陽介が尋ねると、母親は端的にわかるように説明し出した。

 

妹の名前は愛と言い、5歳の幼稚園児で髪型はショート。ピンクのミニーのTシャツを着て白の半ズボンをはいていると言った。

 

こころは、自分が大好きなミニーのキャラクターだっただけに、愛ちゃんのミニーのTシャツに強く反応し、持ち前?の才能がひらめき出した。

 

「陽介、私、愛ちゃんがあっちにいるような気がする。理由は解らないけど・・・。」

 

こころが示す方角は、二人が向かおうとしていた絶叫マシンのあるところだった。

 

陽介はこころが見せる強い意志の目に、

「分かった!じゃこころはそこを探してみて!俺はお母さんたちと迷子センターに行って、その後こころと合流するよ!」と言うと、二人はすぐさま行動し始めたのだった。

 

 

こころは、陽介には言わなかったけれど、なぜか確信があった。

人ごみを縫う様にして、こころは絶叫マシンの方へ小走りに急いだ。

 

こころの目に飛び込んでくる風景は、方向を定めるハイテク機器のように、瞬時に歩く方向を微調整しながら人の波を掻き分け、足の向くままに歩を早めた。

 

絶叫マシンのところまで来ると、そこは多くの人でごった返していた。

 

人ごみがこころの行く手を遮ったが、こころの頭のアンテナは、人ごみに遮ぎられることなく的確な方向を示していた。

 

こころは、絶叫マシンの白い橋げたを何本もくぐり抜けると右手に折れた。

 

植え込みが左手に続き、春には濃いピンク色に咲いているつつじに沿って歩いていると、突然こころの頭にミニーの顔が浮かんできた。

 

その瞬間、『愛ちゃんは近くにいる!!』と直感的に確信が持てた。

 

おもむろにこころは携帯電話を取り出し、陽介に連絡を取った。

「陽介、そっちはどう?!何か情報があった??」

陽介は、「いや特に今のところないけど、こころの方はどう?」と聞くと、

電話口から悲鳴に似た驚きの声が聞こえてきた。

 

「こころ!こころ!どうした!!何があった!!」

電話は、プープーと切れた音がしていた。

 

掛け直す電話にこころは出なかった。何度も掛け直したが同じだった。 陽介は、すでに走り出していた。

 

この時だけは、陽介のいつも緩んだから顔から笑顔が消え、真剣な眼差しで絶叫マシンの方角へ全速疾走で駆けていた。

 

陽介は、こころと違ってすれ違う人たちとぶつかりながらも、全力で向かっていた。

 

絶叫マシンの乗り場が見えてくると、人ごみに混じってこころの笑顔が見えた。

 

「こころ~!!」と陽介は叫びなら、こころのところへ近づいた。

「こころ!!大丈夫だった!!」

「うん、ありがとう。ごめんね。陽介と電話してたらさ、愛ちゃんを見つけて。」

 

陽介は、こころの傍らにいる愛ちゃんを見たのだった。

 

次回、7月31日(水)「子供が本当にほしかったもの 後編」につづく

 

 

 

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