モテ期③

  

男性社員は、彼女が泣いている姿を見つけて声を掛けた。

 
「どうしたの?何かあったの?大丈夫?」と言って、彼女を人の通りの邪魔にならないように道の端に寄せてあげた。

「すみません。もう大丈夫です。」

 

「本当に大丈夫?ならいいけど。ひょっとして彼氏と何かあった?」

「えっ、彼氏とかじゃないです。それに彼氏なんかいません。」

 

「そうなんだ。てっきり彼氏がいると思ってたし、仕事のみんなもそう言ってたから。」

「もう大丈夫です。なんでもないですから。」

 

「なんでもないのに、その涙は異常な気がするな。」と言って、男性は下を向いたままの彼女を見つめていた。

男性は「そっか、人生いろいろあるもんな。泣きたい時は泣いたらいいよ。」と言って、彼女をそっと抱きしめた。

 

彼女は、初めて男性から抱きしめられてびっくりしたが、男性の力強い優しさに触れて、急に涙が止まらなくなって彼の胸で泣いたのだった。

男性は、彼女が泣くのをジッと受け止めていた。彼女は、男性の腕の袖をギュッと握りしめながら泣いた。

 

 

しばらくして、彼女は落ち着きを取り戻し出して、男性の顔を見上げた。彼女は、男性から優しく見つめられる経験も初めてだった。

男性は言った。

「俺、会った時からずっと好きだったんだ。かわいいから彼氏がいると思って、何も言わなかったけど。よかったら俺と付き合ってほしい。」

 

彼女はびっくりした。初めて男性から好きだと告白されて、どうしていいか頭が真っ白になって下を向いた。

男性は彼女からの反応がなくて、今のドキドキした緊張に耐えられなくなってきて戸惑った。男性は告白したと言う、居ても立ってもいられない衝動に駆られて、彼女に顔を近づけてキスをしようとした。

 

彼女は、男性の突然の出来事に驚きと緊張と怖さが混じり合い、腕を伸ばして男性を押し退けた。そしてその瞬間『バッシ!』と、彼の頬に平手打ちをしたのだった。

彼女は、今自分がしてしまったことにどうしいていいのかわからず、「ごめんなさい。」と言って、走り去ったのだった。

 

 

つづく…次回は「恋愛期」

 

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