「完璧主義な私とは」
『§まっすぐに生きるのが一番』
「第28話:完璧主義な私」
新しいテーマをと思ったのですが、前回まで書いてきた物語をさらに展開してお話をしていきたいと思います。
哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった。
哲也のこの恋は、正月に先輩から食事に誘われ、その恋人の美雪、そして彼女の職場の後輩の優花と会ったことがきっかけだった。
前回のお話は、哲也は優花と恋人同士の関係になった数日後、先輩から珍しくお昼を誘われ、近況報告をしたのだった。
今回、優花も会社の美雪先輩から、久しぶりに仕事終わりで食事に誘われたのだった。
「望月さん、優花でいいよね。こうして仕事の後に会うなんて久しぶりね」
「そうですね。先輩も私も仕事が忙しくて、なかなか時間が取れなくなりましたね」
「最近はどんな感じ」
優花はすでに哲也さんの先輩から美雪さんに話が言っていると思っていたので、
「え、まあ、先輩にお正月食事に誘ってもらったおかげで、楽しくさせてもらっています」
「それはよかったわね。つき合ったばっかだし、今が一番楽しい時期かもね。まあ、のろけ話を聞くのもいいけど、最近仕事の方はどう?」
優花はてっきり二人がつき合ったなれ初めを聞かれるとばかり思っていたので、意外な振りに少し戸惑いを隠せなかった。
「新しい商品企画のリーダーに抜擢されたんだってね。どう、慣れた?」
「いえ、全然勝手が違って慣れるのに必死です。それにまとめ役というそんな大役今まで経験ないですし、先輩のように能力がないので、日々試行錯誤で精一杯です」
「そんなことないわよ。優花がリーダーに抜擢されたって聞いて、当然と思ったわよ。確かに慣れるまでは大変だけど、優花にはチームを上手くまとめる力があるから、大丈夫よ」
優花が抜擢されたプロジェクトのリーダーは、仕事の花形だった。総合職で女性がリーダーに選ばれたのは美雪がはじめてで、優花はその二人目だった。
「みんな協力的で議論も活発にアイデアを出し合っているんですけど、それをまとめ上げるのが大変で。試作品の発注日も迫って来て」
「そうね、私も大変だったかな?私は毎日上司に怒られてた印象しか残ってないかな」
「そうなんですか」
「ちゃんと上司とコミュニケーション取ってる?」
「え、まあ。いろいろアドバイスもらってますが、それでもなかなか上手くいかなくて」
「優花は完璧主義なところがあるからね。完璧主義って“0か100”って感じでしょ。『これ!』って決まればどんどんやっていけるんだけど、自分が納得いく答えが見つかるまであれこれ考えて動けなくなっちゃうんだよね」
「そ、そうなんです。みんなのアイデアをまとめて試作品を提案しようと思うんですけど、自分の中で納得がいかなくて」
「完璧主義ってきちっと責任を持って仕事をする上ではとても大切なことなんだけど、何もかも自分で答えを出さないと納得できなくなるから、優花も思い過ぎてない?私も完璧主義なところあるからわかるんだけど、これってプライベートでも出て来るわよ。哲ちゃんとは大丈夫?」
優花は『哲ちゃん?私はまだ哲也さんなのに』と一瞬頭を過りながらも、仕事の話から急に現実に戻された感じになり、哲也とのことを考えた。
『私が哲也さんに完璧主義なところ・・・、そう言えばデートの予定はいつも私が決めてるかな?でもそれって哲也さんに聞いても、どこでもって返って来る感じだから、結局は私が提案するって感じなだけだし。でも哲也さんから提案されて、あまり気乗りしなかったから、逆に提案したことがあったかもしれないけど。
あっ、電話は私からかけるって言ったわ。だって、いつかかって来るかわからない電話を待つのって辛いから。それに何か夢中になってるときに電話がかかって来て、中断されるのも嫌だし。私って、結構自分勝手で我儘な女?』
哲也はデートの予定すべてを彼女が決めて、一方的な彼女からの電話も、優花が我儘な性格を心の内に隠し持っているとそう見抜いていたことを、今の優花はまだ知らない。
「なんか思い当たるふしでもあるんじゃないの?私、今でこそのほほんとしてるけど、優花が新入社員で入って来て私が教育係になったじゃない。あの時の私って厳しかったと思わない?完全な完璧主義者だったからね」
「いえ、先輩が厳しくご指導してくださったからこそ、今の私があるんです」
「まあ、そんなふうに言ってくれると救われるけど、今思うともう少し優しくしてあげればよかったと思ってるわよ」
「そのぶん、先輩が異動してから公私にわたって可愛がってもらってます」
「そのぶんって、当時そう思ってたわけね」
「いえ、そんなつもりで言ったんじゃないんです」
「ハハ、わかってるわよ。私がね、今のほほんとしてるのはかっつん、あ、つき合ってるアイツにね、ガツンと言われたからよ。
私ね、デートのプランとかすべて私が決めてたみたい。私は私でいつも『どこ行く?』って聞くと、どこでもいいみたいな返事するから私が決めてあげてたのよ。でね、ある時私が『いつも私ばっかり決めないで、たまには自分で決るって気ないわけ?』って言ったら逆切れされてね。
それで彼が言うにはね、何度も言ったって言うの。その度に私が、あれはヤダこれはヤダって言って、結局私が決めたデートプランじゃないと納得しなかったって言うの。それで私も言ってやったの。『つまらないデートプランばっかりだったんじゃない?』って。
そしたら、『お前の気分ですべて決めて。別の日に俺が言ったところに行ったらもっと早く来ればよかったね』って言ったらしいのよ。『結局お前が納得しないとすべてダメだから、言うの諦めた』って。でね、私それよりも『お前』って言われてなんか腹がってそれで大ゲンカ。
あとで冷静になって彼に言われたことを考えてたら、確かに自分が決めて納得したことじゃないと嫌な自分がいたなって。私って、自分勝手で我儘な嫌な女だったんだなって」
優花ははっとして、さっき自分が哲也に対して思った気持ちを代弁されたように感じて、胸の内で苦笑いした。
「それで『どうしたらよかった?』って彼に聞いたの。そしたら、『今の自分の気分の善し悪しで決めるなって。それよりも行ったら楽しいこととか、行ってみないとわからない楽しさもあるんだから、行く前から決めつけるな』って。それ聞いてハッとしてさ。私って結構いろんなこと、“こうあるべき”って決めつけてたかもって。それから人の話をもっと丁寧に聞こうって、相手にいろいろ相談するように心掛けようと思って。
今の優花もそれじゃない。自分の中で提案すべき試作品のイメージがあって、そのイメージ通りにならないから自分だけで悪戦苦闘して。それに上司に相談してもアドバイスはくれても答えをくれないから、それなら自分で考えた方がいいって思ってない?
それと、自分が思い悩んで思案していることを、チームに話したことある?それってチームのみんなを信頼してないんじゃないかな。他のチームのメンバーが解決策を持ってるかもしれないよ」
優花は先輩の話を聞いて、目から鱗だった。自分はリーダーだから自分が何とかしなければならないと思ってたけど、私はリーダーってだけでチームの一員に過ぎないことを忘れていたし、チームのみんなを信頼してなかった。それにちゃんと上司は私を見てたんだ。
だから私が上司から先輩と同じことを言われても聞く耳を持たないこともわかってたから、元同じ女性リーダーでもあった先輩に声を掛けてくれて、忙しいのに美雪先輩が来てくれたんだ。
そう思うと優花は胸の中が熱くなり、気がつくと目から涙が頬をつたっていたのだった。
人はみな多かれ少なかれ、完璧主義な自分を持っている。それは名前を変えて、こだわりや頑固さだったり、プライドだったりする。
けれども、日々の平穏な中で、気づかないまま自分の気分の善し悪しでものごとを選択し、自分に都合のいい自分勝手で我儘な振る舞いをしているのかもしれない。
そんな人間関係の中で生きていると人は疲れてしまい、人は人間関係からの安らぎや安心を、自ら遠ざけていってしまうのかもしれない。
そして、心の奥底に隠れている感情、
「愛されたい、愛してほしい」と思いながら。
あるがままの自分と我儘な自分との狭間の中で、
人は日々心揺れ動いて生きているのかもしれない。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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