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「明日彼女が帰国する」

 

私は、和尚から「彼女と付き合ってるのか?」という言葉に、6月25日彼女が海外へ出発する日の不安な感情がよぎって戸惑っていた。

 

「『どうしたのかな?』と、普通は優しく聞くところだが、そうはいかんぞ。」

「どういうこと?」

「ちゃんと自分の感情に向き合えということだ。」

「一応向き合ってはいるんだけど。」

「なんじゃ、一応って言うのは。」

「向きあってたつもりでいたんだけど、和尚の言葉に反応する自分がいたんで。」

 

「それを“向き合ってない”って言うんだ。」

「あれから影響されない、信じる自分でいたんだけどな…。」

「ま~強く言っても仕方ないか。どうだ、特別に彼女との状況を分析してやろうか。なんだ、急にほっとして嬉しそうな顔をしよって。」

「別に嬉しくはないけど…、和尚の話が聞けるんならと思って。」

「じゃ特別にしてやろう。でも、一つだけ断っておくが、わしが分析をして行き着いた答えが良くなかったら、縁がないと思ってその彼女を諦めろ。」

「え~、なんで!」

 

「当たり前の話だ。それともなにか、いい話だったらおまえの怖れや不安を和らげる糧にして、悪かったら自分に納得できないからといって都合よく受け流すのか!」

「そ、それは…。」

「情況を分析するのは、客観的になって自分の今の立ち位置を理解するために役立つものだが、おまえが求めるのは、おまえの中にある恐れや不安な気持ちを、彼女を使って安心させるためのまやかしだ。」

「そ、そんな。」

「怖れや不安は自分が創り出すとさんざん言っておきながら、その自分の怖れや不安に向き合えない弱い自分がいるなら、そんなおまえと付き合っているほど彼女は暇ではない!彼女にとっても有難迷惑な話だ。そんな男を彼女は好きになるはずがない!」

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないか!」

 

「どうだ、諦めついただろう。だからもう、これからも彼女のことで思い悩む必要もない!」

「な、なに言ってるんだよ!彼女の気持ちもわからないのに、なんで決めつけるんだよ!」

「決めつけてない!わしにはわかる!」

「どこをどう思ってわかるんだよ!なにがわかるって言うんだよ!!」

 

「和尚になにがわかるっていうんだ!!彼女のなにを知ってるっていうんだ!なにもわからないくせに。俺にはわかるんだよ!彼女も俺のことが好きなんだよ!俺がここまで来るまでにも、俺が家で引きこもっていたことがあったときも、彼女は俺の心に寄り添ってくれていたんだよ!

『今日もお昼はひっそりとひきこもってるの??』って、普通こんなこと聞ける?聞けないよ。俺だって普通聞けないよ!それを彼女は言えるんだよ。そんな俺のどこかを信頼してくれていたんだよ。

だから、俺と話していて、彼女が自分のやりたいことを見つけたときも、まるで俺と一緒にやっていきたいって思うような話をしたんだよ。海外に行く前日だって、『(雑貨品の)下見兼ねて行ってくるね。』っていってくれたんだよ!

それに、彼女からの誕生日カードにあった「Message for you」に書かれていたメッセージ、なんて書いてあったと思う。

そこには、 “♪Happy Birthday♪ 来年も再来年も素敵なまさでいてくださいね♡ 当日は「おめでとう」と言えないので先に言わせてください。『まさ♡お誕生日おめでとう』”って!

 

俺は知っているんだよ。彼女が俺とまだ付き合えないってことが。今彼女が俺と付き合ったら、今まで我慢してる仕事に気持ちが入らなくなって辞めたくなるから、いや彼女はきっとすぐに辞める。彼女はそういう人なんだよ。

彼女は毎回の仕事帰りの食事デートには、いつも喜んで来てくれる。でも、二人きりでどこかにいったりしたら、恋人同士の気持ちが高まってしまうだろう。そんなときに俺に告白されたら、今の俺の経済的な状況では“NO”としか言えないから、“NO”っていったら今のこの関係が永遠に終わってしまうと思うだろう!

“今は付き合えないって”言いたくないし言えないだろう!それに、俺に理由聞かれて、“俺が成功したらって”そんな天秤に掛けたような駆け引きみたいなことは、彼女はできないんだよ!彼女はそういう人なんだ。彼女もほんとはつらいんだよ!!

 

だから彼女は、俺を待ってくれているんだよ。だからいつも話を聞いてくれて、俺のミッションやビジョンを話したときも、『いつでも近くで見守ってるね。』っていってくれて、応援してくれているんだよ!!彼女は俺が今の仕事に道筋が付いたら迎えに来てほしいって、待ってるんだよ!!

それなのに、信じきれなかった俺が最低なんだよ。彼女を少しでも疑ってしまった俺が最低なんだよ。彼女の気持ちもわからずに、俺はほんとうにバカなやつなんだ!!」

「おまえはほんとうに大バカだ。大バカやろうだ!…そろそろ鐘をつく時間だ。まさ、ちょっと代わりについて来てくれないか。」

「えっ。」

「今のおまえのありのままの気持ちでつく鐘の音は、決して彼女には聞こえないかもしれないけれど、そのおまえの素直で優しい気持ちの振動は、遠く離れたスペインにいる彼女にもきっと届くはずだろうからな。それが終わったらめしだ。今日はすき焼きだ!」

 

私は、鐘楼に上がるとゆっくりと気持ちを込めて鐘をついた。「ゴ~ン」と響くその振動を心で味わい愛でながらすっきりした気持ちになって、私は明日の7月5日(金)に彼女をサプライズするため関西国際空港へ迎えに行くと決めたのだった。

 

「お~いまさ、さっき言い忘れたんだが、あれはあくまでもおまえさんの見方であって、実際彼女はどう思っておるかわからんからな。これでうまくいったらほんとに奇跡じゃ。ハハハ、おまえさんと話してると愉快じゃ愉快じゃ。そろそろめしにするか。」といって、和尚は母屋に入っていった。

今の私には、和尚にそんなことを言われても、すべてを受入れられる自分がいたのだった。

 

  次回7月7日(日)…「(仮題)関西国際空港」

 

 

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