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「子供が本当にほしかったもの 後編」

 

こころと再会した陽介は、全身でホッとしていた。

 

陽介は傍らにいる愛ちゃんに

「大丈夫だった。独り寂しくなかった?!」

「うん、大丈夫だったよ。」と言うその目は、安心しきった優しい子供の純粋な目をしていた。

 

「ねぇ、ねぇ、この人お姉ちゃんのパパ??」と、真剣に聞く愛ちゃんの眼差しに、

こころは一瞬どう答えたらいいか戸惑ってしまったが、陽介の方を向いてニンマリして愛ちゃんに言った。

 

「そうだよ。お姉ちゃんのパパだよ。」と言うと、

「いいな~お姉ちゃんにはパパがいて・・・。」と本当に羨ましそうに言った。

 

「愛ちゃんにもパパがいるでしょう?」とこころが聞くと、

「うぅん、、、愛のパパは遠いところにいるの、、、」

「どうしてなの?」

「何年か前に、愛が朝目を覚ますといなくて、それからずっと遠いところにいったままなの、、、」と寂しそうにうつむいた。

 

こころは、手をつないでいた愛ちゃんの手が、強く自分の手を握りしめるのを感じた。

 

 

「愛ちゃん、じゃ遊園地にいる間、愛ちゃんのパパになってあげようか。」と、陽介はそう言うと、「えっ!!いいの!!」と一瞬嬉しそうな笑顔をしたがすぐに雲ってこころの顔を覗き込んだ。

 

「でもいい、、、お姉ちゃんのパパだから、、、お姉ちゃん寂しくなっちゃうもん、、、」と言う言葉に、二人は胸が締め付けられた。

 

「愛ちゃんいいよ。パパ貸してあげる。」とこころが微笑むと、「ほんと!!やった~!!やった~!!ほんとにいいの?」と愛ちゃんは満面の笑みで喜びを表現していた。

 

その瞬間愛ちゃんは陽介に肩車をされて、「わぁ~、高い高い!!」と、陽介の肩の上で大はしゃぎをしたのだった。

 

 

 

陽介とこころと愛ちゃんの三人は、ゆっくりと迷子センターにもどると、係の人に放送をしてもらい、母親と再会した。

 

陽介とこころは愛ちゃんを母親に引き合わせると、母親は丁重に二人にお礼をいうと、愛ちゃんを怒った。

 

「どこにいってたの!なんでそんな勝手なことをするの!どれだけ心配させるの!なんでも~、愛が行きたいって言うから遊園地へ連れてきたのに、こんなことをになって。お母さんも仕事で疲れてるの!こんなことをしたら、もう二度とどこへも連れて行けなくなるでしょ!!」

 

二人の子供たちは、泣くこともせず黙ったまま下を向いて耐えていた。

 

陽介は、母親の都合で愛ちゃんを怒る姿に我慢ができず、母親に言っていた。

 

 

「お母さん!お母さんが怒る理由もよくわかります!いつも子供たちのために頑張ってて、たまには子供が喜ぶことをと思って今日来たのだと思います。でも、お母さん!二人が今日ほしかったのは何かわかりますか!!

 

お母さん!本当は、遊園地でも公園でもどこでもよかったんじゃないですか。いつも一緒にいられないお母さんと大好きなお母さんと一緒にいられる時間を、お母さんと一緒に笑顔で楽しい時間を、本当はほしかっただけではないですか!!」

 

母親は、ハッとしたような顔をして子供たちの方を見た。

 

 

「お母さん。子供たちは知っているんですよ!!お母さんが毎日大変だってことを!!わたしらのために一生懸命頑張ってくれているってことを!!

 

だけど、今日のお母さんは疲れた顔をしていたのではないですか!仕事で疲れていると言ってしまうぐらいですから。子供がその顔を見たらどう思うと思いますか。きっと、わたしらのせいでお母さんに辛い思いをさせてしまったんだ!また迷惑を掛けてしまったんだ・・・。」と。

 

母親は子供たちの方を振り向くと「ごめんね、ごめんね。本当はお母さんが悪いの。ごめんね。」と言って、二人を抱きしめていた。

 

愛ちゃんは今にも泣きそうな声で「ごめんなさい。」と母親に言うと、堪えていた悲しさを爆発させるかのように声をあげて泣き、お兄ちゃんの男の子も泣き出したのだった。

 

 

 

「お母さん、偉そうなことを言って申し訳ありませんでした。でも、子供は得てしてとても敏感なんですよね。特に下の妹の愛ちゃんは、お母さんに似てとても気遣いの上手なお子さんじゃないですか?

 

いつもお母さんの気持ちを無意識に察していて、いつも子供ながらにどこかでお母さんの役に立ちたいと思っているけれども、まだ小さいから思ったようにいかなくて…。

 

そしてその思いが大きくなると、『大好きなお母さんに迷惑掛けているから、迷惑を掛ける私はいなくなった方がいいんだ!!』と無意識に思い、それは一瞬にして何かに引きつけられるように、気がつけばどこともなく彷徨って歩いていたんですよ。

 

お母さん。子供はどんなときもお母さんが大好きなんですよ!それがお母さんに叱られても、です!!それがわかるから、お母さんもつらい時でも子供のためならがんばれるのではないですか。二人のお子さんは、お母さんが思っている以上にいい子に育ってますよ。

 

お母さんはがんばり屋さんだから…。責任感があっていつも我慢してがんばり続けて。偉そうですけど、もうがんばらなくていいですよ!今、今日この瞬間だけでも!!

 

一緒に楽しみましょう。よかったら一緒に愛ちゃんとその男のお子さんとご一緒させてもらっていいですか?迷惑だなんて思わないでくださいよ!本当は、私たちが楽しみたいだけですから…。」

 

 

 

陽介とこころは、遊園地で今日あったことを思い出しながら、帰り道を歩いていた。

 

「そうそう、愛ちゃんのお父さんね、愛ちゃんが3歳のときに長期海外勤務でエレクトロなんちゃらのプランクトンの仕事で南米に行ってて、あと2年ぐらい日本に帰ってこれないんだって。毎日スカイプで連絡は取り合ってるみたいだけど。」

「エレクトロニクス関連のプラントの間違いじゃない?」

「プラント?そうかもしれないけど…、男ってすぐにどうでもいいことを訂正したがるわよね。なんだっていいじゃん!それより陽介。お母さんに言ってたこと、愛ちゃんは好奇心旺盛で、ちょこまか動いて迷子になるような子供でもない感じがするし。愛ちゃんはお母さんにかまってもらいたくて、無意識に気を引くために心配をかけたんじゃないかって思ったんだけど…。」

 

「うん、寂しさからそれもあるかもしれないね。でも、あのお母さんは、本当に自分がどれだけしんどくても二人の子供には自分ができる精一杯の愛情を注いでいたと思うんだな。

 

愛ちゃんの俺たちへの気の遣いようを思い出してみてよ。『お姉ちゃんが寂しくなるからいい。』って断るんだよ。小さいながらにどこまで気を遣うんだって思ったよ。だから、自分が寂しいから自分に気を引かせるというようよりも、大好きなお母さんに迷惑を掛けてるって思う方が愛ちゃんにとっては悲しいことなんだよ。

 

子供でも誰かに愛情を注いでもらったら、その愛情を返したいって思うもんだよ。それに、迷惑をかけちゃいけなってことは、お母さんから十分学んでるしね。」

 

「えっ、どういうこと?」

「はじめに一緒に愛ちゃんを捜しましょうと言ったとき、『人様に迷惑はかけられません。』って、感じだったじゃん。」

「なるほどね…。そういうことか。子供は親を見てるんだね。」

 

「それに、こういう考え方もあるんだ。これも無意識なんだけど、敏感な愛ちゃんが、お母さんの心身の限界を感じて、無意識にそうならないために問題を引き起こす。それによって、お母さんの心身が解放される。今回お母さんが『仕事で疲れてる』ってついつい弱音を吐けたようにね。お母さんの性格では、日頃顔には出てしまっているかもしれないけれども、絶対に子供の前では口には出さないと思うからね。

 

だから、時として子供が親を助けるために無意識に行動することもあるんだ。夫婦喧嘩をしていると、子供が泣き叫んだり病気になったりするのも、喧嘩を止めさせるために。」

 

「そういえば、お父さんがいないからその分がんばらなければと思って、自分なりに一生懸命気を張りつめてがんばってたつもりだったけど、気がついたら子供の気持ちを考える余裕がなかったって言ってた。それでね、今度愛ちゃんと一緒に三人で料理を作ることになったんだ。」

 

「へ~いい感じじゃん。それよりも今回は、こころのお手柄だったね。こんな広い遊園地で迷子を捜すのは至難の業だよ!それを一発で居場所がわかるんだから、こころはスゴイよ!!さすが、名前が明智こころぅ(小五郎)だけあるよな!」と、陽介は感心していた。

 

こころは、『そんな話どうでもいいじゃん!なんでそんな話になるわけ。流れは今度愛ちゃんと一緒に三人で料理を作る話で盛り上がるとこじゃん!』と思うと、急に腹が立ってきて、こころは無口になり足早に歩きだしたのだった。

 

このあと『どうしたん?なにかあった?』『べつに』と、遠くから二人の会話が聞こえてきたかどうかは、想像にお任せすることにいたしましょう(笑)

 

おしまい。

 

この文書は、このテーマをもとにして書き下ろした創作文書です。登場する人物などは実在といっさい関係ありません。

 

 

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