恋愛期③

 

 北新地で働くようになって、彼女の生活が一変した。ここのお店は、社長や大手企業の接待、時に有名芸能人をお得意さんとしていたので、身なりや服装、経済から文化・芸術まで幅広い社会の知識を身に着けるようにママに厳しく鍛えられた。

 

給料はお客からの臨時ボーナスのチップも重なり、以前とは比べ物にならないぐらい上がった。その分ブランド品や洋服や毎日の髪のセット、その他化粧品のような身の回り品といったもろもろにお金が消えて行ったが、いくらかの貯金はできた。

 

彼女は、社会的に地位のある男性との同伴で最高級の食事を口にしたりして、急に社会的なステータスが上がった気分に浸りながらも、毎日が本当に勉強だったが楽しかった。

 

お店に慣れてきた頃には、彼女は上位で指名される売れっ子ホステスとなっていた。

 

それに比例するかのように、お酒の飲む量が日に日に増えていった。そして、アフターで深酒をした日でも、同伴出勤が続くと胃や肝臓、お肌といった体を休める時間も奪われるようになっていった。

 

 

彼女の恋愛は、社会的地位が高いと年齢層も比例して高くなるせいか、自分の年齢に近い男性との縁はほとんどなかった。出会う一番近い年齢の男性でも、歳の差が15歳は離れていた。
彼女はここでの生活で、愛人も経験した。不倫も経験した。一夜限りの恋も経験した。実ることのない恋愛をたくさん経験した。二股三股と危険な橋も幾度か渡った。問題が起こりそうになると、ママが上手くその火を鎮火してくれた。

 
彼女の男性への恋愛観は、普通と言われる一般論では片付けられない複雑なものになっていた。どこかですべて自分の売上アップの延長と割り切っていたので、自分が傷ついたと思ったことはなかった。

そこでの仕事も25歳までがピークだった。次から次へと若い女の子が入店してくると、世の殿方はいとも簡単に若い女の子に鞍替えしていった。

 

これがこの世界の常なのかもしれないのだが、現実はシビアで自分の売り上げは下降線を辿るようになっていった。

 

 

そろそろこの世界も潮時なのかもと、今までの張りつめた日々の緊張感が緩むと、毎日酷使していた体が急に悲鳴を上げて、彼女は日々の深酒とストレスから胃潰瘍になっていた。

 

そして、彼女は治療のため長期の入院生活を余儀なくされた。それは、この北新地という華やかな世界から去ることを意味していたのだった。

 

 

つづく…次回「転落①」

 

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