物語メソッド実践編:「瑞枝の沈黙のわけ」
◆心の底から自分らしく生きるメソッド(実践編)◆
「光曉和尚の愛と心のセラピー物語」
~私、自分らしく人生を生きます~
§ 瑞枝の沈黙のわけ
前作のお寺に駆け込んできた東山瑞枝の「セラピー物語(序編)」からの続きで、今回はその実践編です。
前回、瑞枝はもう二人のモニターと一緒に和尚の話を聞いていたのだが、和尚からこのメソッドへの参加の同意を求められて、俯いたまま黙っていたのだった。
和尚は話をしている間の瑞枝を見ていて、こうなることは大よそ見当がついていた。
和尚は瑞枝が、『みんなのように前向きにはなれないし、自分にはやっぱり無理だからこの場にいるのはふさわしくないなどと、思っているのだろう』と推測していた。
前作の物語で、瑞枝は『私、ストイックになりたいんです』と悲壮感を漂わせながら、このお寺にやって来た。
物語はテンポよく展開していったのだが、実際はすんなり事が進んだわけではなかった。
和尚は、瑞枝の切羽詰まった悲壮感のある気持ちをなんとか落ち着かせようと、瑞枝との信頼関係を築くきっかけを探すのだが、なかなか見いだせずにいた。
和尚は、瑞枝がなぜストイックになりたいかを聞いても、さらっと内面的なことを触れるだけでストイックになった自分を強調するばかり。
また、彼女が彼と別れたという話を聞いて話を広げようとしても、別れた説明がはじまり、だから『いかに自分が弱くてダメな人間だからストイックになりたい』という話になった。
瑞枝は和尚から、どうすればストイックになって強くなれるかの方法を教えてもらえると思って来ていたので、自分の感情をさらけ出す気持ちはさらさらなかったのだった。
そのような手探りの中、ようやく和尚は瑞枝の大よその性格を掴んでくると、瑞枝が何度も自己否定する言葉を使うことに注目した。
和尚は、それを逆手に肯定的な言葉でオウム返し(相手が言ったことを反復する)をすることで、瑞枝の否定的な言葉を和尚の肯定的な言葉で言い返した。
瑞枝は褒められた格好になり、自分がそうではないことを言い返すのだが、そんなやり取りが何度も繰り返されてくると、瑞枝に理解されない怒りのエネルギーが湧いてきたのを和尚は見て取った。
そして、和尚は「だいぶ顔色がよくなったね。来たときは…」と違う話題に変えて、今度は自己否定することへの理解と共感に努め、瑞枝との信頼関係を築こうとした。
すると、瑞枝は少し落ち着いたのか、しばらくじっと和尚を値踏みするかのように見つめて、自分がマイナス思考であること、人見知りをすること、臆病であること、人を信じていないこと、自分が大嫌いなことを話しだした。
和尚は、その理由をもう少し詳しく聞きたいと思い質問していくと、瑞枝は途中なにかを思い出したのか、そのまま押し黙ってしまった。
そして、しばらくして「いいたくないです」と瑞枝が言うと、それ以上和尚が話しかけても、瑞枝からの言葉は返って来なくなった。
それはまるで別れ話を切り出して、相手が納得するまで俯いたまま沈黙をしているかのような感じだった。和尚は、瑞枝が貝のように心を閉じたことを感じ取っていた。
この重々しい空気を破ったのは、瑞枝だった。
「私、ストイックになりたいんです」
このとき和尚は思った。
「このまま、理屈を話して帰らせることもできるが、この子はいったい私になんの気づきをもたらすためにやって来たのだ」 和尚はあれこれ考えたが、直感的にもう頭で考えるのをやめた。
和尚は頭を空っぽにしてすべてを委ねるように、あとは心の声とも言えるインスピレーションをとおして、自分自身を与えるだけだと思った。
そして和尚は、心の声の赴くままに瑞枝に語り掛けた。
和尚が瑞枝に言い放ったはじめの言葉は、
「瑞枝ちゃん、あんたは幸せにならなあかん人や!(あなたは幸せにならないといけない人だ!)」だった。
それをきっかけに和尚は、次から次へと心から湧き出る思いを瑞枝に話し出した。
和尚は気がつくと目の前にいる瑞枝の目じりから、一しずくの涙が頬をつたっていくのを見た。
和尚は瑞枝のその涙を見たとき、本当にきれいだと思った。その涙に本当に美しさを感じた。和尚もその涙を見て、気がつけば目に涙が溢れていた。和尚にとって不思議というより、とても神秘的な体験だった。
そして瑞枝は、涙をこらえるように話し出した。
「私は疑い深くて、本心では全く人を信じていないのに、信じてるような振りをして、そんな醜い酷いのが私なんです。素直じゃないし頑固でマイナス思考で。その上ひねくれていて。いい加減男性不信だし、私はすべてのことを含めて本当につまらない人間なんです。こんなつまらない私が大嫌いなんです。それなのに大嫌いなことばかり起こって…」
さらに、瑞枝はぽつりぽつりと話を続けた。
「私、人がこんなふうに泣くのが一番嫌いなのに、自分がそうなってしまって…」
「泣いたりして、ごめんなさい。でも話を聞いてくれてありがとうございます」
「私、はじめて自分のことを話したかもしれません。はじめて聞いてもらったかもしれません」
和尚は、瑞枝の心の痛みや悲しみの深さを知った。それはある意味、和尚自身が今まで見ないできた自分の中にある悲しみの海そのものでもあった。
和尚にとってこの体験は、自分の心の中での統合とういう癒しを起こしくれた。それは、自分のポジティブな影に隠れて嫌ってきた暗闇を気づかせてくれた、本当に大きなギフト(贈り物)だった。
和尚も瑞枝に本当に心から感謝したのだった。
和尚はあまり人に対して苦手意識はないのだが、正直瑞枝のようなタイプと深く関わるのは苦手だった。それがこの体験のあと、自分の瑞枝に対する心の意識が変わっていた。
そこにいるのは、本当に慈しみ深くて魅力ある一人の女性だった。そして和尚には、たくさんの価値や才能が見えて、瑞枝が本当に幸せになれると確信できたのだった。
和尚は、まだまだ瑞枝から全幅の信頼とまでは程遠いけれども、半信半疑のところまでは許容してくれたのかな、と思った。
そして、和尚は彼女の本心に少し触れられたが、それはあくまでも自分との関係での話で、今は気持ちが上がってモニターになることを承諾してくれたけれども、正直次に会う(実践編)までに断わられるという気持ちもあった。
さらにモニター二人が加わったときに、瑞枝の性格からすると委縮するだろうと、和尚は思ったのだった。
つづく
次回、明日10月2日(水)は
物語メソッド実践編:「もう、私はいいです」をお話します。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 心より感謝いたします。
※この物語の後半は、実話にもとづいたフィクションであり、登場する人物など、実在のものとはいっさい関係がありません。
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