第3話「母からの電話」



生活リズムは昼と夜が逆転したものの、休日はお店の仲の良い友達とショッピングに出かけた、平日の昼間に映画やUSJにも行ったりして、充実した楽しい日々を過ごしていた。

 

そんなある日、一本の電話が彼女に掛って来た。

電話に出ると、それは母からだった。

母から伝わって来る声は、すぐにただ事ではないことが分かった。
「尚美、お父さんが癌になって入院したから、お姉ちゃんと一緒にすぐに帰って来て!お姉ちゃん仕事中で連絡が取れなかったから留守電に入れたから、お姉ちゃんから連絡あると思うから、連絡を取ってすぐに帰って来てちょうだい!」

母の声を聞いて、混乱し動揺しているのが分かったが、彼女も父が癌と聞いて血の気が引いて行くのが分かった。

母との電話を切ると、彼女は頭で母からの言葉を繰り返し、その度に恐怖で押しつぶされるようないたたまれない気持ちになった。

 

しばらくして、お姉ちゃんから電話があり、二人は夕方の便で四国へと戻った。

病院に駆けつけると、病室には母が心配そうな顔で座っていた。二人の顔を見た母は、ほっとしたように笑顔を作った。

その横で、ベッドに横たわっている元気そうな父がいた。
「お父さん大丈夫!」と、姉が心配そうに父に言った。

「大丈夫や!ちょっと胃に穴が開いたらしいから、手術したら大丈夫やから。心配するな。」

尚美は、元気そうな父を見て安心したが、母の顔が冴えないのが気に掛った。

 

父は昨晩から胃の調子が悪く、朝軽く吐血をしてようで、病院に来たらそのまま入院と言われたようだった。父は医師から胃潰瘍だと告げられたようだった。

父の姉に言った言葉は、そんな医師の診断からの言葉だった。

父の言葉から、父は癌だと知らないのだと姉も彼女もすぐに理解したが、父の元気そうな顔を見て、姉も彼女も本当は胃潰瘍ではないかと、何かの間違いではないかと思わずにはいられなかった。

 

夜の面会時間が過ぎて病院を出ると、母は姉と彼女に父には癌だと告知していないと言った。医師の診断は、今は元気だけれども胃癌で転移し持っても1年だと余命宣告されたと。

二人の姉妹には、母の気持ちが痛いほどわかった。二人の姉妹も父の笑顔を見ると、同じ気持ちだった。

彼女は、姉とできるだけ父の元へ帰った。それは、彼女が父に心配ばかり掛けて来て、何も言わずにいつも見守り続けていてくれた大好きな父への思いから、そうさせていたのかもしれなかったのだった。

 

つづく。

 

 

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