第4話「父の病気」

 

 姉と彼女は、父が手術する日、父に付き添った。

 

無事手術が終わり、医師から最善を尽くした報告を受けた。10日ほどすれば一旦退院できると思うので、通院しながら抗がん剤治療をしていくことになると告げられた。

 

父には、抗がん剤治療のことは言わずに、10日ほどで退院でき、あとは通院で治ると言った。

 

姉と彼女は、母に父を任せて大阪へと戻って来た。母は心では姉妹のどちらかに残ってほしいと思っていただろうが、それは口には出さなかった。そして、また二人は大阪での同じ生活が始まったのだった。

 

彼女は、大阪に戻って来てから心が毎日晴れずに過ごした。それは誰もが同じ状況におかれたならば、当然のことだった。

 

その心にのしかかった重みは、彼女の接客にも現れた。なにかと色恋が混じり合う男女の駆け引きのある状況の中では、冷静な判断力が鈍ることは、お客さんとの感情のこじれにもつながった。

普通この状況では、プライベートでも感情がもつれ合うことが合うのにも関わらず、お酒の入った色恋の場では、とてもつらい仕事になってもおかしくなかった。

 

 

そんな時、彼女のことを気にかけて心配していたのが、ナンバー1だった陽子だった。

彼女は、陽子にはすべてのことを打ち明けた。陽子は彼女のよき理解者となり相談役となって、彼女の心を支えてくれていた。

 

それだけに、彼女にとって陽子の存在は大きかった。

 

父の病状の経過は、姉との連絡の中で知った。彼女の働く時間帯からか、母は姉と連絡を取るようになっていた。母は姉から妹がどこで働いているか知っていたが、直接彼女に何か言うことはなかった。

 

時折、彼女は姉から母がいいように思っていなことを聞かされていたので、そのことは知っていた。姉は、母から父も心配していることは彼女には言わずに、彼女には父は知らないことになっていた。

 

そんな中で、母の献身的な看病も叶わず父の病状は入退院を繰り返しながら、医師の言うとおり癌は転移し進行して父の命を削っていった。

 

父はそんな状況を知っているのか知らないのか、ある時、いつもは必ず母が一緒にいるのだが、彼女は父と二人きりになったのだった。

 

つづく。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です