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 第六話『元カレとの再会』

 

 
  駅前広場に着いた恭子は、辺りを見回した。元カレの姿はまだなかった。時計は7時5分前を指していた。元カレはいつも遅刻してくるからまだ来ていないのだと思った。

 

 
その時、メールに着信があった。健太郎からだった。今着いたという知らせだった。   恭子は、心が痛んだが健太郎には返信しなかった。一瞬用事ができたと返事を打とうかと思ったけれども、健太郎には嘘がつけなかった。諦めて帰ってくれることを望んだ。

 

 
  恭子は元カレを待ち続けた。元カレにメールや電話をし続けたが、メールの返事もコールは鳴るものの電話にはでなかった。いつも30分は平気で遅れて来るけれど、元カレは必ず来ていた。

 

 
時計はいつもの30分が過ぎていた。それから30分待っても元カレは来なかった。メールも電話も同じ結果だった。その間に、健太郎からメールの着信と電話が何度も鳴った。恭子は元カレが恭子にしたように、健太郎にメールの返事も電話にも出なかった。

 

 
 
  8時を過ぎた時、恭子はこれ以上待っても元カレは来ないと思った。いつも30分は平気で遅れるけれども、1時間以上待たせたことはなかった。それでも恭子は元カレに来れない何かの事情が起こったのではないか思った。

 

 
しかし、メールも電話もまた同じ結果だった。ようやく恭子は諦めて帰ろうとした。健太郎のことが気に掛った。あれから健太郎からのメールも電話もないから、もう諦めて帰ったのだと思った。それは当然のことだと思った。

 

 
  恭子は、どうしようもない気持ちに打ちひしがれながらも、それでいてまだどこかで元カレに何かが起こって来れないのだと思う自分がいた。

 

 
恭子はあてもなく夜の繁華街へと歩いていた。何人ものホストのキャッチが声を掛けて来たが、今の恭子の耳にはその声は届かなかった。

 

 
しばらく歩いていると、聞きなれた声に反応して顔をその声の方に向けた。そこには、彼女と思わしき女性の肩に腕を回して楽しそうに歩いている元カレの姿があった。恭子と目が合った元カレは、何事もないように話しかけてきた。

 

 
 
 「よう恭子じゃないか。元気にしてたのか。」という側で、彼女らしき女性が元カレに誰かと聞いているのが聞こえた。
 「こいつか、昔の彼女だった女だよ。」という元カレの言葉に、
 「ずっと駅前広場で待ってたんだよ。」と恭子は振り絞る声で言った。

 

 
 「待ってた!めでてえ女だな。からかっただけで本気にしたのか?ずっとこいつと一緒だから会う訳ないじゃん。勝手なことぶっこいてんじゃねえよ。」と言って、恭子を嘲笑しながら元カレは彼女と思わしき女の肩に腕を回したまま去って行ったのだった。

 

 
 
  恭子は自分のバカさ加減が本当に嫌になった。腹が立たなくなるほど自分が嫌になった。もう生きることがバカらしくなった。涙も出ない自分がおかしかった。完全に精気を抜かれたように、恭子はあてもなく歩き続けた。

 

 
気がつくと恭子は電車に乗っていた。外はいつの間にか降り出した雷雨で濡れていた。時折稲光が見えた。それを見た恭子は、その稲光に当たって死ねたらと思ったのだった。

 

 
つづく。

 

 

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