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 第七話『あなたは大バカ』

 

 
 
車内のアナウンスがターミナル駅の到着を告げていた。悲しくもその駅は、健太郎と待ち合わせの駅だった。恭子は、なぜかおもむろにその駅に降り立った。

 

 
土砂降りの雨で誰もが避難している百貨店前の銅像へと自然に足が向いた。空は雷鳴が轟き大粒の雨が降りしきる中、まるで恭子は懺悔を受けるかのようにその雨の中を銅像に向かって歩いていた。

 

 

 

若い女性が雷鳴轟く大雨の中を傘も差さずに濡れ歩くその姿は、侠気の沙汰でしかなかった。恭子には、もうそんなことはどうでもよかった。もはや打ち叩きつける大粒の雨の痛みも冷たさも感じなかった。今の恭子には、その方が心地よかった。

 

 
 
  恭子はずぶ濡れになっていた。大粒の雨ですぐ先の視界も見えなかった。それでも銅像に近づくために歩いていた。銅像の前に来た時、ここが自分の死に場所だと思った。急に視界から雨がなくなった。

 

 
不思議に思った恭子がうつろな目で顔を上げると、そこに人影が立っているのがわかった。恭子はそれが私を迎えに来た神様だと思った。

 

 
でもよく見るとそこには知った顔があった。そこにいたのは健太郎だった。恭子の意識は朦朧としていて、驚きもしなかった。そして、虚ろ気な声で聞いた。

 

 
 「そこで何してるの?」
 「大切な人を待ってるんだ。」
 「大切な人?」

 

 
 「そうなんだ。今ようやく会えたんだ。」
 「よかったね。」と言った瞬間、恭子は我に返った。恭子は今にも泣きそうな顔で言った。

 

 
 「健太さんはバカだよ。大バカだよ!」
 健太郎は、微笑みながら言った。
 「恭子ちゃんは知らなかった?俺が大バカだってこと。でも大バカも恋をするんだよ。大切な人を守りたいと思うんだよ。」

 

 
 「ここには大切な人なんかいない!人違いだよ。ここにはそんな人なんかいない…。」
 「恭子ちゃんには見えなくても、俺にははっきりと見えるんだよ!それでいいじゃん!」

 

 
 「良くない!!私は酷い女なんだよ!!私は健太さんに相応しい女なんかじゃない!!」
 「恭子!!それは俺が決めるんだよ!!もうこれからはずっと俺のそばにいろ!!」

 

 
 「バカ!!バカ!!健太郎の大バカ!!…後悔しても、後悔してもしんないよ…。」
 「ああいいさ!!その分恭子を幸せにして後悔させてやるから!!」
 「健太郎のバカ!!健太郎の大バカ!!」

 

 
健太郎は、涙で立ち尽くす恭子を優しく抱き寄せた。そしてギュと抱きしめたのだった。恭子は健太郎の温かい胸の中で抱きしめられた。そして、初めて気づいた。

 

 
 『私はずっとこの安心という温もりがほしかったんだ。』と。

 

 
 
エピローグにつづく。

 

 
 

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