日陰②

 

 

女の子は、学校でその彼に会うだけでドキドキした。それ以外の家でも、彼女は彼のことを想うだけで胸がキュンキュンした。しかし、その彼への想いはつかの間の恋だった。

 

 

彼は、いじめっ子たちから彼女のことでからかわれるようになった。いじめっ子たちは、彼が『もう止めとけ!』と言ったことで、彼が彼女のことを好きだとからかった。

 

初め女の子は、その光景を見ているだけで嬉しくなった。でも、彼がいじめっ子たちに彼女に好意がないと強調していく度に、彼女は傷ついて行った。彼女は『彼がそう言わざるを得ないんだ。』と思おうとしても、直接彼が言う言葉を聞くと彼女は傷ついた。

 

それから彼は、女の子と目が合っても目をそらし無視するようになった。彼女は、彼から無理にそうせざるを得ない雰囲気を感じても、それが本当なのか独りよがりの感情なのかわかるすべはなかった。

 

 

女の子は、彼を忘れることはできなかった。あの時の彼の言葉は、彼女にとって一生忘れられない宝物だった。彼女はどこかで彼が無理にそうしているのだと信じたかった。そうあってほしいと信じ続けた。

 

中学3年生が終わり、卒業式の日を迎えた。女の子と彼は別々の高校へ行くことになっていた。彼女は心のどこかで、彼の真意を知りたかった。叶わぬ恋だとわかっているけど、嫌わかっているからせめて彼の真意だけは知りたかった。

 

女の子は勇気を持って、彼にあの時のことのお礼を言うために近寄った。彼女が彼に近づくと、彼の周りにいた友達が何事かという目で彼女を見た。

女の子は彼の名前を呼んだ。初めて彼の名前を呼んだ。心の中では何十回何百回と呼んだ彼の名前を呼んだ。

 

彼女は彼に言った。「あの時、助けてくれてありがとう。」と。

彼は彼女に言った。「何のこと。俺ぜんぜん覚えてないけど。そんなん言ったっけ?」

 

女の子は自分の思いが間違っていなかったと、一るいの望みを託して聞いただけに、彼女の彼へのショックは隠しきれなかった。

 

こうして女の子の淡い恋は、完全に終わったのだった。

 

つづく

 

 

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