第6話「運命の日」



父との二人だけの会話から数週間後、大阪にいた尚美は母からの電話に嫌な予感がした。

「お父さんが危篤状態になったから、医師からこの2、3日が山だと言われたから、すぐにお姉ちゃんと帰って来なさい!」と、言うものだった。

母が、電話口で動揺し混乱して感情的になっているのがわかった。そして、電話口から聞こえる母の声は、恐怖という不安からか溜まり溜まったものを吐き出すかのように、彼女の今までの批判も含めて激しい口調で言葉を吐いたのだった。

 

 

彼女は母との電話を切ると、お姉ちゃんの職場に電話をして、急いで父のいる病院へと向かった。

 

病院に着くと、父は眠ったままだった。血の気を引いたような顔で待っていた母は、危篤になってから小康状態が続いていると言った。

面会時間が過ぎると、母は看護師にこのまま父の側にいたいと言ったが、看護師から完全看護なので、容態が急変したらすぐに連絡をするので帰宅するようにと言われ、母はしぶしぶ姉妹に連れられて自宅に帰ったのだった。

 

運命の日は、思った以上に早くやって来た。

朝方看護師から、「ご主人の血圧が下がり出したのですぐに来てください。」と、急変を知らせる電話があった。

 

母と姉妹が病院に到着すると、三人は医師から父の容態が非常に危ない説明を受け、すがる思いでベッドの側で父を見守った。それから5時間後、父は三人に見守られながら息を引き取ったのだった。

父の運命の日から1週間後には、姉妹は大阪へと帰って来ていた。姉妹はもう少し残ると言ったが、母の強い意向から二人はしぶしぶ帰って来たのだった。

 

それから時は流れ、あっという間に1年が過ぎた。

その間も、彼女は夜の仕事を続けていた。彼女は父の死後、お店では普通に振る舞っていたものの、以前のような覇気はなくなっていた。

 

周りにいた誰もが、父親を亡くしたショックからだと思った。お店で仲の良かった陽子もそんな彼女を見て、できるだけプライベートも彼女と一緒にいる時間を多く持つようにして、肉親の死から立ち直るように彼女の気持ちに寄り添うようにしていたのだった。

 

そんなある日、尚美は陽子に何気なく呟いた。

 

「私、生きていても仕方がない。私、もう生きている意味がない。」と。

 

陽子は、その感情もない坦々と言う尚美の言葉を聞いて、ただならぬ状況だと察した。

陽子は、尚美にその訳を聞くのだが、「自分でも上手く説明できない。」という返事しか返って来なかった。陽子もどうしたらいいのかわからなかった。

そして、陽子は彼女から「ずっと毎日眠れなくて病院の薬を飲んでいる。」と聞いて、直感的に尚美を光曉和尚に会わせようと思い、彼女に必ず会いに行くように諭したのだった。

 

 

「心のセラピー」へつづく

 

 

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