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◇心の底から自分らしく生きるメソッド(序編)◇

『光曉和尚の愛と心のセラピー物語』

~私、もっとストイックになりたいんです~

 

§ 瑞枝の決断

 

前回、瑞枝は和尚から『心の底から自分らしく生きるメソッド』のモニターになってほしいとその理由を聞き、和尚に頭を下げてお願いされた。瑞枝は、予期していたとはいえその姿に体が固まってしまったのだった。

 

瑞枝は、人からこのようにお願いされたことがなかったので驚いた。人に依存することが多かった自分に、人が頭を下げてお願いされることにどう対応したらいいのか戸惑った。

瑞枝は、和尚の姿を見ながら、今までの様々な思いが走馬灯のように駆け巡っていた。

 

和尚は自分に自問していた。

『自分は誠意を持って彼女に思いを100%伝えたか。答えはイエス。だったら、それを決める選択権は彼女に100%預けたのだから、彼女の決意を待つだけだ』と。

 

瑞枝は思っていた。

『これから自分がなにか大きなことをするかのような気がして、自分には到底無理ではないだろうか。

でも、自分が変わって本当に幸せになりたい気持ちになった。

でも、自分は和尚の期待に応えられるのだろうか。和尚の役に立てるのだろうか。こんな私でなくても、他の人の方が適任ではないだろうか。

でも、自分はこんな自分が嫌で変わりたいと思ってここに来た。この和尚なら、本当に自分が変われそうな気がする。

でも、もし決めたら自分はどうなってしまうんだろう。自分らしい自分ってどんな自分なんだろう。

でも、本当に大丈夫なんだろうか。なにも今すぐ変わらなくても、もっとあとからでもいいのではないだろうか。

でも、幸せになるってこんなにも怖いものなの?変わるってこんなにも怖いことなの?』と。

 

瑞枝は、和尚の言葉を思い出して自分の気持ちに問いかけた。

『自分がどうしたらいいのかわからないこの気持ちを抑えて、和尚にどこか悪い気がするから“はい”と返事するんじゃなくて、自分の今の素直な気持ちは何なの。どうしたいの』と。

 

そして、瑞枝が出した答えはこうだった。

「和尚さん、今の正直な気持ちは、少し考えを整理する時間をください。そんなに時間は掛らないと思いますから、ちょっと境内を散歩してきていいですか」

 

和尚は、瑞枝のその話を聞いて、それが彼女にとって心から最善の策だと思った。和尚は、彼女からの“イエス・ノー”にこだわる気持ちはもうなかった。

すべてを彼女に、この流れにすべてをゆだねて『すべてはOK』だと思えていた。

 

瑞枝は、日傘も持たずに境内へと出ていった。

 

和尚はこの時間を使って、床に散らばった古新聞と雑誌を片づけることにした。和尚は、終わりに瑞枝に一緒に手伝ってもらおうと思っていたのだが、『自分で蒔いた種は、自分で刈らないといけない』という言葉を思い出して、『よくできた言葉だ、ほんまに』と思い、苦笑いをしたのだった。

 

 

瑞枝は外に出ると、大きく伸びをして深呼吸をした。記録的な猛暑の夏の日差しにも、瑞枝の心はすっきりとしていた。

 

瑞枝は、人の顔色を伺わずに自分の素直な気持ちを言えたことが、とても清々しい気持ちにさせていた。

 

外に出ると、さっきまで考えていた思考が飛び去って、頭は空っぽ状態の気分だった。

 

瑞枝は日陰を選びながら歩いていると、そこにある木々に新鮮さを感じた。空を見上げると、その空の青さに心が広がっていく開放的な気分になった。そしてまた、大きく深呼吸をした。

 

境内の入口に目をやった瑞枝は、数時間前に自分が血相を変えてこのお寺にやって来て、『私、ストイックになりたんです!』と和尚に言った自分を懐かしく思い出して微笑んだ。

 

このとき瑞枝の中では、まだ答えは出ていなかった。それよりも、自分が幸せになりたいと思っていたのに、幸せになることが怖い自分がいることに気づいて、そのことに気持ちの整理がつかなかった。

 

しばらく境内にいると、この暑さにだんだんと汗ばんできたので、瑞枝は考えがまとまらないまま和尚のいる母屋へと戻ったのだった。

 

 

「あれ、きれいに片づけたんですか。あとで一緒に手伝おうと思ってたのに」

「そうだったんですか。そのままにしておけばよかったな~」

「ほんとにあとで一緒に片づけたのに」

「でも、自分で蒔いたことは自分で片づけないとね」

 

「ところで、和尚さん。まだ答え決めてないんです」

「そうですか」

「和尚さんの顔を見てから決めようと思って。和尚さん、一つだけ質問していいですか」

「ええ、なんなりと」

 

「幸せになるって怖いと思ったんですけど、なんでですか。簡単に一言でいうと」

「(自分を)救いようのないドブスだと思っているから」

「ハハハ…正解かも。和尚さん、でもちょっといい過ぎかも。これでもファッションとかネイルとか好きで努力してるんですけど」

そう言って、瑞枝は微笑みながら和尚を睨みつけて笑ったのだった。

 

「和尚さん、こんなドブスでも幸せになりたいのでよろしくお願いします」

「そうですか、ありがとうございます。本当に嬉しいです。本当は瑞枝さんは、ドブスではないですよ」

「なんか取ってつけたような言い方に聞こえるんですけど…」

「いや、本当にそう思っているからそう言ったんです」

 

「ドブスってことをですか」

「ち、ちがいますよ!」

「なにがちがうんですか」

「だから、その、ドブスじゃなくて…」

 

「じゃなくて、なんなんですか」

「もうわかってるじゃないですか」

「ちゃんと言葉で言ってもらわないとわからないです」

「え、そうですか、あの、その、ですね…」

瑞枝は、和尚が照れてあたふたして、しどろもどろになっているのをみて、可笑しくてしょうがなかったのだった。

 

つづく。

次回は、明日9月17日(火)「メッソドへの下準備」をお話します。

 

最後までお読みいただき、心より感謝いたします。 ありがとうございます。

 

※この物語は、実話にもとづいたフィクションであり、登場する人物など、実在のものとはいっさい関係がありません。

 

 

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