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第二話 『もう恋なんて・・・』

 

 
  カラオケが終わるころ、この四対四の合コンはものの見事にカップルになっていた。恭子にはそう見えた。実際のところ、恭子にはその男しか見えていなかったのだが。

 

 四組のカップルは、恋人同士のように横に並びながら駅への道を歩いていた。気がつくとその集団はバラバラになり、二人だけのカップルのスペースを作っていた。

 

 
  恭子も恋人気分でその男と歩いていた。カラオケで恭子からその男にメール交換をしようと持ち掛け、今度二人だけで会う約束もその場で取り付けていた。おもむろにその男は恭子の手を取り、そして他のカップルとは離れた脇道へと引っ張って行った。

 

 
恭子は一瞬びくりとしたが、その男の強引さに男を感じてそのまま男に付いて行った。その男は恭子の手を力強く握った。恭子はすっかり男の強さに魅了され、その余韻に舞い上がり身を任せるように寄り添った。
 

 

恭子はどれぐらいの時間、どれぐらいの距離を歩いていたのか全く想像がつかないぐらいその余韻に舞い上がっていた。するとその男は恭子の手を握ったまま、一つの建物の中へと入って行った。
 
そこは紛れもなくホテルだった。恭子は一瞬戸惑いどうしたらいいかわからなかったが、ここで拒絶するとこの男に嫌われ、今までの高鳴る気持ちも終わってしまう怖さが勝り、何も言えずにその男に付いて行った。

 

 
 
  その男は部屋に入ると、激しく恭子を求めてきた。恭子は体を強張らせ抵抗するもののそれは本気ではなかった。なぜなら、この恋がすべて終わってしまうことが怖かった。

 

 恭子はその男がすることになすがままに身を寄せるしかなかった。恭子はこれから始まる二人の幸せに期待を込めて、勇気を持ってその男に言った。

 

 
 「正式な彼女にしてからにしてほしい。」と。しかし、その男は何も返事をしなかった。
 
 
恭子はもう一度その男に言った。すると、

 

 
 「めんどくせえこと言ってんじゃねえよ!そのつもりで付いて来たんだろうが!」と言って、その男は恭子にキスを求めて来た。
 
 
恭子は男の豹変した言葉を聞いて体に恐怖が走った。恭子は恐怖と同時に怒りが湧いてきた。

 

 
そして『もうこれ以上弄ばれて傷つくのは嫌!』と思うと、恭子はその男を渾身の力で押しのけカバンを手に取ると、全速力でドアから走り去った。男は恭子に押しのけられた勢いでバランスを崩し、床に仰向けに倒れた。その時間の分、恭子は男から逃げ出させることができた。

 

 
 
  恭子は恐怖で足が震えて、階段を何度も踏み外しそうになりながらも何とか持ち堪えて、その建物から無事に出ることができた。その後も男が追いかけてくるのではないかと恐怖で必死に走った。
 
 
走っている最中、男がキスを求めて来る顔が浮かんできた。服の上から男の手が胸を触った感覚が蘇ってきた。恭子は走りながら目からは留めようもなく涙が流れてきた。そして『もう二度と恋なんかしたくない!』と、心に刻んだのだった。

 

 
つづく。

 

 

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