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第三話『はじめての大人の出会い』

 

 
 合コンでの悪夢から数か月が過ぎていた。あの悪夢からの記憶も薄れて行き、恭子は恋には縁のない生活を過ごしていた。恭子は、ターミナル駅にある人気創作居酒屋で働いていた。

 

 
今日が金曜日とあってサラリーマンやOLで賑わう店内を、忙しく右往左往しながら走り回っていた。17時から働き詰めの恭子は、ようやくラストオーダーの22時30分を過ぎて一息付いていた。それでも店内には、仕事帰りの客で一杯だった。

 

 
 
 23時の閉店の時間が近づくと、終電を気にしてか客が一斉に席を立ち始めレジ前はいつもながらに大混雑していた。この時間には店長自らがレジに立ち、ほろ酔い気分の客たちを笑顔で見送っていた。

 

 
その裏では恭子たちホールスタッフが後片付けに追われ、厨房は返却されてきた食器やグラスで溢れ返り、スタッフたちは23時30分にはすべての仕事を終えて上がらないとあって、週末はいつものごとく戦場のように騒然としていた。ほっと一息付く間もなく着替え終わった恭子は、店長の山岸に呼び止められた。

 

 
 
「恭子ちゃん、お疲れのところ申し訳ないんだけどさ、今日これから少し時間ないかな。  ちょっと一杯付き合ってほしいんだ。」

 

 
そう店長に言われた恭子は、今まで一度も店長からそんな言葉を掛けられたことがなかったので、戸惑いながらも少しびっくりした顔をしていた。

 

 
「恭子ちゃん、そんな怖い顔しないでよ。」
恭子は自分が身構えて怖い顔をしていることに気づいて、慌てて笑顔を作った。

 

 
「実はさ、さっきレジを打ってたら偶然大学時代の友達に会ってさ。久しぶりだから少し飲もうという話になってさ。男だけって言うのも味気なくて、恭子ちゃんに一緒に来てくれないかな~と思ってさ。その連ってとても気さくだから全然気を遣う必要もない奴だから、少しだけ付き合ってくれないかな。帰りはタクシー代出すから、ね、お願い。」

 

 
 
恭子はここまで言う店長も珍しく、あれ以来奈美からの誘いもすべて断ってお酒も飲んでいなかったから、今日は少しぐらいいいかなという気持ちになって店長からの誘いにOKしたのだった。

 

 
 
恭子は店長が仕事を終わるのを待って、友たちが待つジャズが似合うバーへと入って行った。先に座っていた友だちは、恭子を見て驚いていた。

 

 
 「お前一人じゃなかったのか。てっきり二人きりと思ったから気を緩めてたじゃんか。よかったんですかお疲れのところ。山岸のわがままに付き合って。」と言って、その友だちは恥ずかしそうに恭子を見た。

 

 
 「いえ大丈夫ですよ。私もこういうところ好きですから。」と言って、恭子は微笑んだ。
 「ほら、良いって言ってるから飲もう飲もう。俺は生ビールもらおうかな。」と言う店長に、恭子はいたずらっぽく睨んだのだった。

 

 
 簡単な自己紹介があり、その友だちは「望月健太郎」と言い中堅の会社で営業をしていた。二人は「ギシ、健太。」と学生時代の呼び名で呼び合っていた。恭子にはそれがとても新鮮に思えた。

 

 
トークは店長の知られざる学生時代の話で盛り上がり、店長の違う一面を見て恭子はとても親近感を覚えた。気がつくと恭子は、健太郎にも同じ思いを抱いていた。その思いは、恭子にとってはじめて味わうとても新鮮な感じがしたのだった。

 

 
 
つづく

 

 

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