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『§まっすぐに生きるのが一番』
「第22話:人間関係からの安心よりも自分の強さの果てに①」

 

 

今回は少し趣を変えて、お話をしたいと思います。

 

 

題である「人間関係からの安心よりも自分の強さの果てに」。

 

 

正確には「人間関係からのやすらぎよりも、自分の強さを優先させる果てに」という言葉なのですが、その言葉を聞いて、どんなことを浮かべるでしょうか。

 

 

例えば、人間関係の希薄化が言われる昨今、そんな関係からの煩わしさから得られるやすらぎよりも、自分が強くさえあればそれなりに自分一人でもやすらぎも得られるとか。

 

 

自分の強がった性格のせいでいつも我慢を強いられたり、人間関係に誤解を生んだり。また時には傷ついたり、裏切られたり。それならいっそのこと強がって生きたほうがらくだとか。

 

 

そんなことをモチーフに、自分の強がりが、人間関係からの安らぎにどう影響してくるのか、物語にしてお話をしたいと思います。

 

 

『§一人で得られる安らぎ』

 

 

今年の干支は酉か。来年は年男の36歳かと思いながら、ワンルームの部屋で新年を迎えた犬丸哲也は普段と変わらない休日を送っていた。この正月休みの用事と言えば、会社の先輩から3日の日に飲みに行く約束をしたことぐらいだった。

 

自分は普段からあまり人との付き合いもなく、会社と家の往復をする毎日だったが、そんな生活は嫌いではなかった。そんな中で先輩からの誘いは本来なら断るのだが、先輩が何年も一緒に同棲している美雪さんと正月ずっと一緒にいると息が詰まりそうになるからとか、よくわからない理由で半ば強引に約束させられたのだった。しかも彼女が自分たちだけだったら申し訳ないからと、自分の会社の後輩をつれて来るからおまえもこの機会に彼女を作れと、わけのわからないことを言って一方的に電話を切ったのだった。

 

 

当日、自分と先輩が予約している居酒屋に先に着き、後で美雪さんとその後輩の女性がやってきた。

 

「哲也くんあけおめ。元気にしてた?お正月なのにこの人につき合わされてごめんね」
「いえ別にすることもないですから」と言いつつも、自分は美雪さんが連れてきた後輩に釘付になっていた。その視線を感じたのか、
「あ、紹介するね。同じ会社の後輩の望月優花ちゃん。彼女彼氏いないんだって」
「いえ俺は、ただ、暇だったからここへ来ただけです」
「正月そうそう私たちのラブラブを見せつけられるのも悪いかいと思って、まあそう言わずに仲良くしてあげて」美雪さんは楽しそうに笑いながら、4人は席についた。

 

 

確かに自分は望月さんに釘付になっていたかもしれないけれど、きれいでおしとやかでしかも知的でそんな魅力的な女性を見たら、男だったら誰でも同じ状況になるだけで、正直自分と同じ世界を生きる人ではない高嶺の花、ただそれだけだった。

 

 

飲み会はそれなりに場が盛り上がり楽しかった。終始先輩と美雪さんが中心になって話をし、時折二人から自分と望月さんに話を振られて話す感じで、結局最後まで自分と望月さんはほとんど会話をせずにお開きとなった。

 

 

駅に着くと先輩が、
「おまえ望月ちゃんと連絡の交換したのか」と大きな声で言われ、
「そうよせっかくの機会なんだからLINE交換したら」と美雪さんにも言われたが、
「大丈夫です。交換しても連絡は取らないですから」
「なんだよおまえ、そんなんだから彼女もできないんだよ」そう言う先輩の言葉を無視して、
「今日は楽しい時間をありがとうございました。先輩また会社で」そう言うと、みんなとは帰る方向が一人違う電車の改札口へと向かったのだった。

 

 

 

電車の車窓から外を見ながら、連絡を交換したからと言って彼女と自分は生きる世界が違う。希望を持ったところで、結局は『この前は楽しかったです。また機会があればご一緒したいです』、みたいな社交辞令の連絡を取り合うだけなのが目に見えている。煩わしさだけが増えるだけ。そうやって煩わしさから希望を持たないように生きて来たのも事実だが、つくづく人間関係から得られる安らぎよりも、一人でも好きなことから得られる安らぎだけで、十分今の自分を楽しめている。

 

例え、万が一、もし、彼女と自分がつき合うことになったとしても、いつか裏切られることを思いながら、そんなスリルを味わうだけの気力は今の自分には持ち合わせていない。そう思いながら、慣れ親しんだ安らぎの場所へと帰って行ったのだった。

 

 

数日後、彼のスマホが鳴った。日頃人付き合いの少ない彼は、番号通知で架かって来た電話をしばらく眺めながら、電話に出ようか迷いつつ電話に出た。

 

「もしもし、犬丸さんでしょうか」聞き覚えのある声に、望月優花とすぐにわかった。哲也は警戒心を高めながら、何も言わずに相手からの出方を窺っていたのだった。

 

 

つづく。

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 

 

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