転落②

 

 デートの当日、男性はいつものスーツではなくカジュアルな姿で待っていた。彼女は、そのギャップにまた魅力を覚え、いつも以上に胸がキュンとなった。

 

彼女は彼とのデートを重ね、4回目のデートの時に、彼女は彼への気持ちを抑えられずに、自分から彼に告白したのだった。

彼女は1回目のデートで男と女の関係になっても、男はそういうものだからと割り切っていたが、本心は嫌われて彼を失うのが怖かった。しかし、彼は紳士的な態度で彼女を大切に接してくれた。彼女は彼の予想外の行動に、ますます彼のことが好きになった。

 

3回目までの彼女と彼のデートは、お互いが好き同士だと、毎回気持ちを確認し合うだけで満たされるプラトニックなものだった。

4回目のデートの時もお互いの気持ちを確かめ合いながら、夜の食事の後には公園で手をつなぎながら散歩をした。そして、お互いがドキドキするようないい雰囲気になり、初めて彼とキスをした。彼女はその高揚感と彼への想いに耐えられなくなってしまい、彼女から告白するという形になったのだった。

 

彼は、彼女の気持ちをしっかり受け止めた。彼女はやっと本当の幸せを手に入れたと思った。そして、二人は恋人同士になった。彼とデートを重るごとに、二人は深く愛し合った。そして、1年という時間があっという間に過ぎて行った。

 

彼と付き合って1周年記念を間近に控えたある日、彼女は用事があって車で遠出をした帰りに、買いたいものを思い出して、日頃来ることない場所のショッピングモールに立ち寄った。

 

広い大型ショッピングモールで、目的の物を買うために半分迷子になりながら、そのお店を探していた。

すると、のぼりのエスカレータから見覚えのある顔を見て、彼女はびっくりした。それは、紛れもなく彼氏だった。

しかし、よく見るとその彼氏の隣には、幼稚園児の女の子と奥さんと思わしき女性が一緒に立っていた。そして、彼女とその男は鉢合せをする形で、お互いの存在を知ったのだった。

 

その男は結婚していた。左手には結婚指輪を嵌めていた。その場は修羅場と化し、彼女は激怒してその男に文句を浴びせた。

しかし、その彼女の言葉を遮ったのは、その男の妻だった。
「子供が見ている前で止めてくれませんか。別のところで二人で話し合ってくれませんか。」と、その妻は冷静な口調で夫である彼にも促した。

 

そして、妻は夫に向かって言った。

「この子のためにも、きっちと清算してきてください。あなた、私は前から知ってましたよ。それも男の甲斐性だと私は理解しているつもりですから。」と言って、妻は子供の手を引いて立ち去ったのだった。

 

彼女は、その妻の懐の大きさに愕然とした。子供を産んだ女性の強さを思い知らされた気がした。彼女は、急に怒りが冷めてもう何も言う気持ちが起こらなかった。

彼女は深呼吸を一つして、男と対峙した。彼女は彼に何も言わなかった。その代りに『バッシ!』と、力を込めてその男の頬に平手打ちをしたのだった。

 

彼女は踵を返すと、車を止めてある駐車場へと歩いて行った。そして、彼女は車に戻ると、堪えていた気持ちをぶちまけるかのように、声を上げて泣いたのだった。

 

つづく。

 

次回「転落③」の後は、いよいよ「心のセラピー」へと続きます。

 

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