「人も同じ鳥かごの中の鳥は逃げる」
『§まっすぐに生きるのが一番』
「第44話:人も同じ鳥かごの中の鳥は逃げる」
哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。
前回、おばあちゃんの友人の農家から帰ろうとした時、優花の妹がかわいがっていた愛犬の小鉄が行方不明になった。しかし、妹の中でなにがあったかわからなかったが、意を決したように愛犬の小鉄と別れをした。
それから1週間後の休日、哲也は優花と久しぶりに二人だけのデートをしたのだった。
「あれから妹はどう、元気にしてる?」
「うん、それが人が変わったように積極的になって、今ではおばあちゃんのお付のように、ほぼ毎日大学から帰ってきたら、おばあちゃんがやっていることのお手伝いをしているみたい。なんか生き生きして楽しそうにしてる」
「ふ~ん、まあおばあちゃんの側にいたら安心って感じだね」
「さすがに帰って来た日は、そのまま自分の部屋に閉じこもってたけどね」
「まあ、それが普通だけどね」
「それから数日後、先週行った農家のおばさんから、愛犬の小鉄の近況の電話があって。たまたま私も帰ってて、おばあちゃんが電話に出た後、妹に代わって直接おばさんが小鉄のことをいろいろ話してくれたみたい。それで電話を切った後、こんなことがあったの」
***********
「小鉄元気にしてるって。毎日おじさんの畑仕事に一緒に付いていってるんだって。ほとんどおじさん一人で畑や田んぼに行ってたから、なにかあったときに小鉄がおじさんと一緒にいてくれると安心だって」
「そうだね。お二人とも若いといっても60を超えてるから、なにかあったときには賢い小鉄がいると安心するだろうね」
「ね、ね、おばあちゃん。小鉄それがわかって、わざと帰らなかったのかな」
「さ~それは小鉄に聞いてみないとね」
「そうだけどさ。それで小鉄、リードとかなくて放し飼いなんだって。“逃げて何処かにいかないの?”って聞いたら、ずっとおじさんのそばにいて、帰ってきたら小鉄専用の場所で寝てるんだって。
でもおばあちゃん。放し飼いにしてたら、小鉄どっかいかない?今度行ったとき、会えなくなっちゃう。ねえ、おばあちゃんからおばさんに、リード付けてって言って」
「いいじゃない、リードなんかしなくても。小鉄は賢いからそんな必要もないし、本来はそれが自然なことなのよ」
「でも、おじさんが畑仕事してる間に山に行って、そのまま脱走していなくなるかもしれないじゃん」
「あら、小鉄は脱走なんかしませんよ」
「そんなのわかんないじゃん」
「脱走の意味をちゃんと理解してる?囚われている、あるいは束縛されているような場所から抜け出し、逃げだすことよ。小鉄はそんなんじゃないでしょう」
「だけどさ、小鉄はおじさんやおばさんに飼われてるじゃん。囚われてるのと一緒じゃん」
「それはどうかな。小鉄は自分の意志で自ら選んであそこにいるんじゃないかしら」
「そうだけどさ、心配じゃん。小鉄がもしいなくなったらと思うとさ」
「鳥かごで飼っている鳥はなんで逃げるかわかる?」
「捕まえて鳥かごに入れてるからでしょ」
「そうね。本来鳥は森のかなかを自由に飛び回るものだものね。こんな話があるの。
森の中で住んでいた人が、鳥かごの中で鳥を飼っていたの。あるとき、いつも大人しいから鳥かごから出して、手の上で鳥に餌を上げていたの。そうしたら急に飛び出して行って、そのまま森の中に消えて行ったの。
途方に暮れていると、数日経ったとき、その鳥が帰って来たの。そのときその主人は網で鳥を捕まえようと思ったんだけど止めたの。
なぜ止めたかと思う?それはその鳥があまりにも楽しそうだったから。それで主人は、せめて天敵からその鳥が襲われないようにと、鳥かごの入口を開けたままにしておいたの。
次の日朝起きて見ると、その鳥かごの中に、その鳥がいたの。主人が鳥かごに近づいて行くと、その鳥はそのかごから出てきて、その主人の肩に止まったの。
主人はそのままにして、自分の仕事をし出したの。しばらくすると、その鳥は森の中に飛んで行ったんだけど、気がついたらまた戻ってきていて、主人の周りにいたり、そして気がつくと自分から鳥かごの中に入っていった。
と言うお話なんだけど。小鉄もリードを付けると、かえって逃げ出そうとしないかしら。高校生の時、お母さんから家にいるように言われたり、夜外に行って連れ戻されてたら、かえって家に帰りたくなくなってたんじゃないかしら。
人も同じだね。心が不自由になると、人も動物も反発したくなるものなの。それはあなたが一番わかってるんじゃなかったかしら。
人も動物も、みんな幸せで楽しそうに生き生きしているのが一番。
それを自分の都合で縛り付けるのは、我がままで自分勝手じゃないかしら。
信頼して、見守るって簡単なことじゃないから、人は自分を律することができる強い心が必要になるの。
あなたはそれがちゃんとわかる強い心を持った女性よ。立派だったわよ、小鉄にお別れできたこと」
**************
「すごい話と思わない。横で聞いていて感動しちゃった。妹もその話を聞いて、なにか思うところがあったのか、それ以上なにも言わなかった。だた『わかった』って言ってた」
「へ~、へ~、おばあちゃんすごくない。俺が妹だったら、なんか心が救われたようなすがすがしい気持ちになってたよ」
「そうよね。近くにいて妹、どんどん成長してるのがわかるの。妹は私と違って、かわいくて女の子らしいし、人の気持ちがわかって人の心に寄り添える優しい子よね」
「そうだね、そうだね、俺もそう思うよ・・・」
「・・・それだけ?」
「えっ、なに?」
「別に。独り言」
「なんだよ独り言って」
「別に。ひょっとして哲也、私より、妹の方が好きだったりして」
「な、なに急に変なこと言ってるんだよ。優花が好きに決まってるだろう!」
「ふふふ、ただ言ってみただけ」
哲也はほっとしながらも、『それを俺に言わしたかったのかよ』と、喉まで出かかった言葉を呑み込み、優花が嬉しそうにしている姿を、自分も一緒に味わい愛でたのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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