「私を生きる力を身につける」
『§まっすぐに生きるのが一番』
「第45話:私を生きる力を身につける」
哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。
前回、哲也の彼女である優花の妹が、愛犬の小鉄とさよならをした。その中で、おばあちゃんが話した自由に生き生きと生きることが、小鉄にしても人にしてもその人らしく生きられることに対して、妹は納得したようだった。
哲也は優花から日に日に成長する妹の話を聞き、最近では妹がおばあちゃんの付き人のように、おばあちゃんにべったりのようだった。
「哲也、私。あのさ今度の土曜日、ちょっと付き合ってほしいんだけど」
「いいけど、なにかあるの?早速小鉄を見に行くとか」
「そうじゃないんだけど、今度の土曜日おばあちゃんが近くの公民館で講演することになってね、そのお題が『私を生きる力を身につける』なんだけど、なんだか気になってよかった一緒に聞きに行かないかなと思って、空いてる?」
「空いてるけど、おばあちゃんすごいタイトルで話をするんだね。俺も興味があるからぜひ聞きに行くよ」
そう言って哲也は優花との電話を切ったのだった。
土曜日の当日、哲也と優花は公民館へと出かけた。
会場に着くと妹が会場整備をしており、二人の姿を見つけるとほほ笑み、また作業に取り掛かった。
会場はパイプ椅子をならべると、100人ぐらいは入る部屋だった。
会場にいる人を見渡すと、おばあちゃんの知り合いの年齢層や、子供を持つお父さんお母さん世代の人がいた。その中で二十歳前後とおぼしき女性が2、30人ぐらいおり、どうやら妹が声を掛けた幼馴染みや大学の友人だった。
会場は総勢80人ぐらいになっていた。
そうこうしているうちに講演会がはじまり、哲也と優花は中央の中ほどに陣取った。
*********
「みなさま今日はこんなにもたくさんの方にお越しくださり、ありがとうございます。何かのご縁でここにいることに感謝いたします。
私ごときの年寄りが、みなさまにお話しできることはないのですが、せっかくの機会をいただきましたので、老婆心ながらみなさまあにお役に立てるお話ができたらと思っております。
さて、そこに座っている若い女性のみなさんは、自分のことが好きですか?自分にダメ出しをしたりして自己嫌悪になったりしませんか?
突然失礼な質問をさせていただいたのですが、若者に限らず、大人たちも自分のことが好きでなかったり、すぐに自己嫌悪になってしまうという話をよく聞くのです。
それで私はそんな話を聞くといつもこう言うのです。
『自分のことが好きでない人、大歓迎です。すぐに自己嫌悪になるひとも大歓迎です』と。
みなさんきょとんとされるのですが、私は続けてこう言います。
『自分が好きでないこと、自己嫌悪になること、それがあなたから人に与えられる人生の贈り物になるんですよ』と。
“人生の贈り物”と言うとわかりにくいかもしれませんが、自分が好きでないことや自己嫌悪になることが、時に人の心に寄り添い、人を救うことがあるんです。
ちょうど今日は若い世代の人たちもいるから聞くけど、けっこう自分が好きでなかったり、自己嫌悪になる人って多いんじゃないかしら。
うなずいている方が多くいらっしゃるみたいですね。
みなさんもそうですが、私たちが中学生や高校生といった頃は、社会のことなどがわかってきて、いろんな理不尽を感じる頃だと思うんです。
それでこんな話をよくするんです。
ある中学生の女の子の愛ちゃんが友人言うんです。
『もー私いいわ、もう生きてても仕方がない。こんな家族と一緒に暮すのはもうゴメンや。もう我慢の限界や、いっそこのまま死んでしまった方がらくやわ』
すると友人が、
『そんなん言いなや。軽々しく死にたいなんて言いなや。腹が立ってる気持ちわかるけど、そんなふうに言わんとき』
『そんふうにって言うけど、うちの気持ちなんかわかれへんやろ。いつも幸せそうにしているあんたには、うちの気もちなんかわからへんわ』
『愛ちゃん、甘いは。うちのこと知らんやろ。あんたがそれぐらいで死にたい言うんやったら、私何十回も死んでるわ。
私がここに引っ越して来たんは、家族で逃げて来てん。お父さんが経営してた会社が倒産して借金があって、会社潰れたから返されへんねんけど、毎日のように家にまで取り立てに来て、もう外にもでるのが怖くて。
あるとき夜中に起こされて、それでこの町に逃げて来てん。
今もいつ借金取りが来るかとびくびく暮しているやけど、転校してきて友達もいなときに、愛ちゃんが私に優しく声を掛けてくれたんよ。それから仲良しになって、家にも連れて行ってもらって、一緒にお出かけしたりして、私、愛ちゃんといるときが唯一楽しい時で、今まで愛ちゃんがいなかったら、愛ちゃんがいたから毎日頑張って生きて来られてん。
だから、死にたいなんて言わんといて。これからも一緒にいてほしい。愛ちゃんがいなくなったら私どうやって生きていったらいいかわからへんから、お願い・・・』
愛ちゃんははじめて友人のことを聞いて、いつも元気に振る舞っていたけども、毎日辛い思いしていたのを知ったんです。
愛ちゃんこそ、この友人にいつも話を聞いてもらって助けてもらっていたんです。二人は抱き合うように号泣しました。
私たちは、生きている限りいろんなことがあって、辛い体験もたくさんしてきています。
そんなとき、人の気持ちに寄り添えるのは、その辛い体験だったりするんです。
ときに自分の体験が、人の心を救うこともあるのです。
この友人が愛ちゃんに見せたように。
私たちが、人を励ましたり勇気づけたり、また相手に人から励ましてもらったり勇気づけてもらったりすることが多くあると思いますが、それはすべてその人の体験から、そうおもうから励ましたり勇気づけたりするのです。
誰かから相談されたときに、話をしてあげれるのは、自分の体験から得た経験や知識ではないでしょうか。
ないものは話すことも、与えることもできないんです。
だから、特に若い人にはたくさん体験してもらいたいと思うのです。
人に寄り添える体験と言う心の引き出しを増やしてほしいのです。
私たち大人もまだまだいつまで経っても未熟です。
未熟だからこそ、いろんなことを体験し続けることが大切なんですよね。
その体験こそが、『私を生きる力を身に付け』、自分自身を成長させていくのだと思っていますが、みなさんはどう思われますか?
それでこの話には続きがありまして、友人が愛ちゃんに言うんです。
『私も辛いことがいっぱいあるけど、もし死になくなったら、一緒に死のな』
愛ちゃんはその言葉を聞いて友人が本気だと知り、本当に自分も道連れにされてしまうと思ったんです。
そしてこう思ったんです。
『生きなきゃ!友人の分まで頑張って生きなきゃ!』と。
愛ちゃんはそのことがきっかけとなって、目の色を変えて前向きになり、いろんなことに挑戦し、今もその友人と仲良く人生を生きているようです」
哲也は食い入るようにおばあちゃんの話を聞き、人生は自分の体験に裏打ちされて生きているのだと思いながら、おばあちゃんの次の言葉を待ったのだった。
つづく。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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