『§まっすぐに生きるのが一番』
「第50話:意図的に生きる生き方②」

 

 

哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。

 

 

前回、哲也と優花は、優花のおばあちゃんの講演の聞きに行っていた質問の時間の中で、

 

 

おばあちゃんは子供も若者、大人も考える力や想像する力の低下や、ますます受身的な思考回路にもなり、主体的に行動することができずに、結果的に楽な方に流れることに懸念を持つと言う話をしていた。

 

 

おばあちゃんは、さらに語気を強めて話しだした。

 

 

 

「先日、二十歳になる女性というより女の子に会いました。つぶらな真っ直ぐな目をした、かわいらしい女の子で、そのまま大人になったという感じの女の子でした。

 

 

彼女は高校卒業後、都内で一人暮らしをしながら事務の仕事をしています。実家は都外の新興住宅街で、そこでは仕事があまりないので、都内に出てきたと言っていました。

 

 

そしておもむろに私に言うのです。

 

 

『森で暮らしたい。森でお猿さんと一緒に暮らしたい』と。

 

 

こんな話を聞くと、メルヘンチックな気持ちが抜け切れないのかと思うのと同時に、都会での生活が上手く行かず、友達もいなくて孤立しているのかと思ってしまいます。

 

 

でも、話を聞くと、仕事は楽しく順調にやっているようで、食事に行ったりする友達もいるようです。

 

 

私も秋田の農家の出身ですから、農業でもしたいのかと、お米を作る話や畑で野菜を作る話をすると、それには全く興味がないようです。

 

 

そこで、私も彼女にとても興味を持ったので、さらに話を聞いてみました。

 

 

私は森で棲むのだったら、自給自足しないといけない話をすると、自給自足という言葉がわからなかったようで、

 

 

『食べるものはどうするの?』と聞くと、『森にいれば食べるものに困らないんじゃないの?』と聞いてきました。

 

 

私は、再度食べるためにはお米や畑で野菜を、手間暇かけて作ったりしないといけない話をすると、『ムリ、じゃ作って』という返事が返ってきました。

 

 

さらに、『私、ハーゲンダッツのアイスクリーム大好きだから、アイスクリームは食べたい。バニラとクッキーがいい』と。

 

 

私が『森に棲んでいたら、買いに行くのもすごく時間がかかるよ』と言うと、『じゃどうしたらいいの?』と、聞き返してきました。

 

 

 

私はこの話を聞いたとき、数年前にお医者さんが書いた本のことを思い出しました。

 

 

その本の中で、子供の成長を研究している先生が、小学6年生に「家と木と人」を描いてほしいと言って、二つの時代の2枚の絵を比較したものが載っていました。

 

 

一つは1981年の小学6年生の男子が描いた絵。もう一つは1997年の小学6年生の男子が描いた日常の絵です。

 

 

1981年の絵には、自然と人間との関わりがあり、家もしっかり描いてあり、そこには物語がありました。

 

 

一方1997年の絵は、屋根の△と建物の□が描いてある単純な平面の家。さらにそこには野球場や釣り場や食堂、そして子供がその絵に関連せず独立して描かれ、自然との共生感もなく、物語が見えてこないバラバラに描かれた絵でした。

 

 

なにが言いたいかといいますと、まず多面的に見る力がないということ、そうなると断片的に問題や人を見ようとするということです。

 

 

つまり、物事の把握の仕方が、断片的で平面的になり、そこには物語も物事を統合して見る力が育っていないのです。

 

 

1981年に描いた小学6年生は1970年代を子供として過ごし、1997年に描いた子供は1980年代後半を過ごし、この彼女は2000年代を過ごしたわけですが、

 

 

この彼女が過ごした2000年代は、インターネットが普及し、ゲーム、携帯、そしてスマホが身近にあった時代です。

 

 

そして、私がこの彼女に会って話を聞いていた中で感じたことは、ちょっと言い過ぎかもしれないと思いますが、

 

 

物事の把握の仕方が断片的・平面的で、物事を見る統合力の無さは、“人を野生化させる?”と、そんなことを思いました。

 

 

これは、他の言葉で言い換えるなら、感情的な右脳が発達し、理性や考える力の左脳が発達していないと言うことかもしれません。

 

 

それはすなわち、健全に脳が発達せずに大人に成長していると言えるかもしれません。

 

 

実際に、スマホ・ゲームに依存する青年期の脳をMRI画像による解析で、今までの健全な脳とは違い脳が変形し、脳組織の発達が遅れることが明らかになったと、書いてある本がありました。

 

 

その本の帯には、“脳の解析データを見て絶句し、自分の子どもにスマホを与えたことを大いに後悔しました(脳科学者川島隆太)”と書かれていました。

 

 

参考文献
・「子どものまま中年化する若者たち~根拠なき万能感とあきらめの心理~ 幻冬舎新書 鍋田恭孝著」

 

・「やってはいけない脳の習慣~小中高生7万人の実証データによる衝撃レポート 青春出版社 横田晋務著 川島隆太監修」

 

 

とは言うものの、時代の流れに逆行することはできないのが、歴史をみても言えることで、一つひとつの事情の問題に対処することも大切ですが、

 

 

今のこれからの時代を生きていくためには、この時代にあった考え方を身に付けて生きていくことが、これからの私たちにとってとても重要なことなのだと思うのです」

 

 

そう言って、おばあさんは、会場にいる人たち見渡し、最後のこれからを生きるための核心の話をし出したのだった。

 

 

つづく

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 

 

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