「夜に鳴かないといけないセミ」
『§まっすぐに生きるのが一番』
「第52話:夜に鳴かないといけないセミ」
哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。
哲也は優花のおばあちゃんの講演会での話を聞き、心の奥底でなにか突き動かされる衝動に駆られ、『自ら意図的に生きる、自ら律する自律した生き方』の言葉が、いつまでも脳裏から離れなかったのだった。
講演が終わると、流れで哲也は優花の自宅で晩ご飯の食卓にいた。
両親は、妹からその日あったおばあちゃんの講演の内容を聞きながら、言葉足らずの部分を優花が補則していた。
当のおばあちゃんはというと、家族とは食べる料理が違うので、変な気をまわさなくていいことを理由に、いつも通りこの時間は自室にいた。
とは言うものの食卓には、おばあちゃん特製の煮物や煮つけ、それに自家製の漬物がのっていた。
哲也はおばあちゃんの話の内容を振り返るように、妹が話す内容を聞いていた。
哲也は妹の話を聞きながら、
「世の中は豊かで平和に満ちているけれども、どこかこのままでいいのだろうか」と。
そんなことを思ってみても、なにがどう問題で、なにをすればいいのかと自問すると、明確な答えと思えるところまでは辿り着けなかった。
家族の団らんはおばあちゃんの講演の話しから、家族それぞれの思い出話に花が咲き、気がつけば終電を気にする時間になっていた。
哲也はそろそろ帰ることを告げると、優花がそこまで送ると言ってきた。
夜も遅いからと断りつつも、哲也は優花と少しだけでもいいので、二人だけになりたいと思った。
優花の強い主張のおかげで哲也は優花と二人きりになれ、二人は駅までの道を歩いていた。
「今日はすごかったね。おばあちゃんが今の時世(時代)のこともしっかり見ていて、あれだけのことを日頃から考え行動しているなんて、ほんとびっくりだね」
「すごいと思ったよ。やはりあった時からただ者ではないと思ってたけど、あれだけのことを話せるって、日頃から思ってないとお話せないし、それに今のこの時勢(状態)のこともちゃんと知っているから驚きだよ」
「なんかこれからの私たちの世代が、どう生きていかないといけないか、そんなことを考えさせられたわ」
「そうだな、今は平和だけど、この先、天災だけでなく、財政危機、経済危機、近隣諸国の緊迫した関係、隣国の経済情勢など、どんな国を揺るがす有事があるか、ほんとわからないからな」
「なんか暗い話ね。もっと幸せにどう生きていくかと、私はそんなつもりで言ったのに」
「ハハハ、それが一番大事だな。その考えがあってこそ有事があったときに、どう生きるかだからな」
「なんか話を聞いていると、なんかとても大変なことが起こるみたい」
「まあ、そうならないことを祈りたいこところだけどね。ねえ、セミの鳴き声しない?」
「えっ?そう言えば、あの公園の方から聞こえて来るわね。でも、こんな時間にセミが鳴くかな?」
「いや間違いなく、セミが鳴いているよ。なんで昼間でもないのに。ここじゃない?」
「あらたくさんセミが鳴いてる。なんか蒸し暑く感じて、また今日も熱帯夜って感じだね」
「うん、見てよ。街灯に覆いかぶさるように木が茂ってる。この街灯の光で、昼夜を認識できずに鳴いてるんだ。この街灯、LEDかな。すごく明るいな」
「そうね、昔はもっと暗い印象だったけど、とても明るいわね。見ていたら眩しいぐらい」
「四六時中鳴いてるのかな?なんか怖くなってきたな」
哲也は、なにかもう自分の意識では理解できない怖さを感じた。
「この前さ、仕事で山梨県の電機メーカーの工場に泊りで行ってきたんだけど、」
「えっ、聞いてないよ」
「言ってないけど・・・。それでさ、夜に山梨から山の中を車で高速に乗って帰って来るんだけどさ、ほとんど真っ暗なわけ。
疲れもあって、早く家に帰って寝たいと思いながら運転してたんだけど。それがさ、東京に近づいて町並みが見えて来ると、急に周りが明るくなるんだよね。
家の明かりやビル、商業施設、マンションの明かりが辺りを明るく照らしてるんだけど。そんな中を走ってたらなんか脳が覚醒したかのように、急に頭が冴えてきてさ。
これからがんばるぞ~みたいな気分になって。
山梨じゃ20時にでもなれば、郊外をはずれると辺りは真っ暗でさ、でも都心は23時でも明るいわけ。
それって、脳は昼間って感じに思うんだろうね。
この明かりが、本来人間が持ってる体のリズムも狂わせてるんじゃないかと思うと、なんか怖くなってきてさ。脳にとても影響しているんだなって思って。
ここにいるセミもまだ昼間の感覚のまま、鳴いているんだろうな」
「そうかもね。この辺りはまだ住宅街で暗いけど、渋谷なんかにいると明るいもんね。白夜と同じで生物時計がリセットできないと、生物時計と環境時計のズレが生じて睡眠障害を訴えるって聞いたことがある」
「へ~やっぱそうなんだ。子供も俺たち大人も、そんな中で暮らしていると知らないところで何かしらの影響を受けて、疲れが取れずにストレスを引き起こしてるのかもな」
「そうね、で、なんで泊りで山梨に行くって言ってくれなかったの?」
「えっ、必要だった?」
「さあ、自分の胸に手を当てて聞いてみたら」
「はあ?」
「じゃあね」
「ちょ、ちょと、どういうこと?」
「知らな~い。終電逃しちゃうよ」
「あっ」
「私より終電のほうが気になるわよね」
「えっ?」
「終電逃しちゃうよ、気をつけてね。じゃあね」
状況がまったく理解できない、なんとも後味の悪い哲也。
優花が去っていく後姿を見送りながら、急にやるせない気持ちになり、目の前にある街灯にしがみついてセミと一緒に泣きたい気持ちに駆られ、このときはじめて優花の寂しい気持ちを理解したのだった。
哲也は時計をチラッと見ると走りだし、この後哲也は優花のもとへ行って後ろから抱きしめたのか、それとも終電を逃せないと駅へと向かったかは、ご想像におまかせいたします。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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