『§まっすぐに生きるのが一番』
「第71話:納得して決める大切さ」

 

 

哲也が意図しないまま「殺し文句」を言った瞬間から、哲也と優花はお互いを認め合った唯一の存在として、恋人同士の関係になった二人の物語。

 

 

前回優花は、哲也から「一年の計は元旦にあり」と言われて、デートした1月14日が南極大陸で1年間置き去りにされた日本の南極観測隊の樺太犬のタロとジロの生存が確認された日にちなみ、『愛と希望と勇気』を選んだ。

 

 

人として生きていく中で、この『この愛と希望と勇気』を持って、自分らしく生きていきたいものである。

 

 

その日の二人のデートは、さらに続くのであった。

 

 

 

「正月が過ぎると、毎年あっという間に3月の年度末だよね。そう思っていると、4月から新卒が入って来て、また新しい年度がはじまったって感じだね」

 

 

「早いよな。毎年一年が過ぎるのがほんと早いよな。今年も新人担当かな」

 

 

「いいじゃん、フレッシュな気持ちになってまた心新たにって感じで」

 

 

「そうだな、目的意識高い子が来るから教えがいもあるんだけど、その分自分の仕事の時間が取られて残業が増えるのがね」

 

 

「哲也もそうやって教えてもらって成長してるんだから、恩返ししなきゃ。哲也の会社は、新卒の定着率っていいの?」

 

 

「まあ、いいんじゃない。あまり辞めたって聞かないけど。優花の方は?」

 

 

「うんそうね。私のところの部署はみんな頑張ってるかな。でも営業部はちらほら聞くかな。それも1年持たない子がここ最近増えてるみたい」

 

 

「大卒の就活は、ここ最近売り手市場で学生有利で、どこの人事も採用人数の確保に必死だって聞くよな」

 

 

「へーそうなんだ」

 

 

「得意先の中堅企業の課長が言ってたんだけど、人事は採用人数の確保から今まで採用してこなかった学生層も採用しだして、その新人が現場に来たら使い物にならないことも、しばしばなんだって。

 

 

その中でも気になるのが、社会人としての意識というか、ただ大学生になって目的意識もないまま、なにかに打たれた経験もなく過ごして、そのまま流されて就職活動をしているような学生が増えたって。

 

 

だから、この会社で働くという気持ちも曖昧のまま社会人になって、嫌なことがあったり自分に都合の悪いことがあると、あからさまに顔に出す子もいるみたい。

 

 

その課長もその子をみて、どう理解してどうしてあげたらいいのか悩んだんだって。

 

 

ある時、課長が部下の若手社員に事情を話し、その新人を誘って飲みに行ったんだって。

 

 

そこで若手社員に、その子の大学時代やこの会社に入ったきっかけを聞いたんだって。

 

 

そうしたら、何がやりたいかわからないまま、いろんな会社の面接を受けて落ち続けていたらこの会社から内定が出て、両親もここでいいんじゃないって言うから、就職活動も暑かったせいもあって身が張らなくなってここに決めたとか。

 

 

まあ、ここまではよくある話かもしれないけど、とても興味を持った話があってさ。

 

 

若手社員が、『10月の内定式も出て、卒業式も終えて、いよいよ4月から社会人と思ったとき、これから社会人として頑張ろうとか頑張らないととか、思わなかった?』って質問したんだって。

 

 

そしたら、その子は別にそんなことは思わなかったようで、逆に『これから社会人になって働かないといけない』と思ったんだって。

 

 

それで若手社員が、『これからはじまるって、わくわくやドキドキや怖いとか変な緊張感があったりしなかった?』って聞いても曖昧な返事をするから、

 

 

『ひょっとして、大学で授業受けるノリやバイトに行くノリ?』って聞いたら、それに近いかもって返事が返って来たんだって。

 

 

それで課長は思ったんだって。

 

 

『この子の気持ちの中では、まだ大学を卒業してないのか。社会は大学と同じような延長線上にあるのか。

 

 

普通は甘い大学生活から厳しい社会に出るにあたって、納得して社会で働いていこうと強く思ったり、社会で働くことを自分に言い聞かせるように納得させたりすると思うのだが』と、なにか信じられない気持ちになって。

 

 

その時、若手社員がその子に聞いたんだって。

 

 

『今まで自分で決めてこなかっただろう。大事なことを自分で決めてこなかっただろう』と言うと、

 

 

『そうですね。そうかもしれないですね』と。

 

 

それで課長が直接その子に聞いたんだって。

 

 

『大学も就職も、ひょっとしてアルバイトも、親が言うからそこにした?』」

 

 

その課長は、自分で決めてこなかったって、考えてもみない答えに行き着いて、言われたことはやっていたけど、それ以上の自分からというものはなく指示待ちの姿勢など、その子のすべてがつながったんだって。

 

 

だから自分に納得して仕事をするわけでないから、嫌々で仕事になってくるから、注意されることも増えるし、そうしたら会社も嫌になってくるし。

 

 

結果的にその子は、1年持たずに辞めてしまったんだけど。

 

 

それでその子が辞めた理由が、『自分が思っていた会社と違ったから』って。

 

 

その時課長が、両親にも相談したのかって聞いたら、

 

 

『お母さんも自分に合わない会社で嫌々働いても仕方がないから、自分にあった会社を探しなさい』って。

 

 

 

「優花、これからそんな子が入って来るのかな」

 

 

「そんな子ばかりじゃないと思うよ」

 

 

「そうだよな。この間工場長にその話してさ、そしたら人事にも話をしてくれたみたいで、面接で学生に『困難なことにぶつかったときに、自分でどうその困難を乗り越えたか』を、重要視して聞くようにするって」

 

 

優花はそれには答えず、自分は困難なことにどう乗り越えて来たのかを考えながら、

 

 

『自分は答えが出るまでけっこう考え悩んで答えを出して来たけど…。今の子は、あまり考えずに直感的に好き嫌い、楽しい楽しくないでいろんなことを決めてる?』

 

 

優花はバラエティ番組で若い女性タレントの発言を思い出しながら、ハンドルを握る手に力が入っていたのだった。

 

 

 

『自分の人生は自分で決める、決められる』と言う言葉があるけれども、そこには上手く行かない選択も時にある。

 

 

でも、いろんなことが簡単に上手くできて、失敗することができなくなっている、いや失敗する経験を上手にすり抜けて生きていける、そんな社会になっているのかもしれない。

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 

 

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