心のセラピー物語三部作・第三弾です。

  三部作第一弾は「男性不信を乗り越えて」という、男性を信じられなくなったお話です。

 三部作第二弾は「生きている意味なんて」という、お母さんの強烈な一言に、生きている意味を見失ってしまったお話です。

 

 さて、この第三弾は、「どんな私でも愛される」という、深い深い心の痛みのお話で、はたしてどんな展開が待ち受けているのでしょうか♪

 

 

 ‐プロローグ‐

 

 山里離れたこのお寺も、桜の季節は過ぎ去り新緑の季節となっていた。

 

 

光曉和尚は、境内にこの間まで濃い桃色に咲いていた八重桜の木を見て、小腹が減ったのか無性に桜もちを食べた時の中のこし餡の味を思い出していた。

 

その思いを中断させるように、境内に入る階段を駆け上ってくる足音がした。 和尚は『誰だろう。』と待っていると、見覚えのある顔が現れた。

 

 

 「和尚さん、おられて良かった。実は相談に乗ってもらいたことがあるんです。」と言ったその男性は、「男性不信を乗り越えて」に登場していた、あの陽子の夫だった。

 

 

 和尚は、『夫婦仲の相談なのかな。』と思いながら、陽子の夫の言葉を待った。

 

 「実は、私ではないんです。あ、そうそう陽子も息子も元気に幸せにしています。全くの別件なんです。」と、夫は息を切らせていた。

 

 

 「実は、知り合いの女性のことで、是非とも和尚さんに相談に乗ってもらいたいと思って来たのですが、その女性来てませんか?」

 

「さあ、誰も来てないですがね。」

 

 「直接行くって言ったので、ここで待ち合わせすることになってたんですが、ちょっと電話をしてみます。」と言って、携帯電話で電話をしたのだった。

 

しかし、その女性の携帯は、待受けの音楽は流れるものの出なかった。

 

 

和尚さん、実はその女性ちょっと訳ありで知り合った子なんですが、私の目から見ても相当追いつめられているような状況でして、私も相談に乗ったんですが、まったく埒があきませんで。信頼のおける和尚さんの話をしたら、会ってみると言ったので今日こうして来たんですがね。」と言って、彼はため息をついたのだった。

 

「まあお話は伺いますが、当人がこないことにはね。」

「そうですよね。」と言って、彼は困った顔をしたのだった。

 

彼は1時間ほど待っていたが、結局彼女はこなかったのだった。

 

 

その夜、和尚のところに一本の電話があった。

 

「もしもし、和尚さんですか。今日、ここに男の人が来ましたか。」

「ええ、来ましたけど、あなたの知り合いの方?」

 「今日、和尚さんに相談に乗ってもらうことになってたんですけど、急に救急車で運ばれていけなくなったんです。その人、何か言ってましたか?」

 

 

和尚は、電話口で何か違和感を感じながら聞いていた。

 「和尚さん、私の相談乗ってくれるんですか?」

「ああ、いいですよ。わざわざ電話をしてくれてありがとう。」

「えっ!なんでありがとうなん?」

 

「こうして連絡をしてくれたから。それより大変だったんだね。」

「まあ、もう大丈夫やけどね。わかった。明日行くから、お寺に行ったらいいんやね。」

 

「ええ、お待ちしていますね。」和尚がそう言うと、電話はそれで切れたのだった。

 

 

和尚は、彼も相談できる立派な人なのに、彼がここへお願いするぐらい一筋縄ではいかない女性であることが、わかるような気がしたのだった。

 

 

 この後、彼女が和尚のところに相談に来るのだが、和尚はこの時、彼女からの相談内容を聞いて、絶体絶命のピンチに立たされるとは思いもしていなかったのだった。

 

つづく

 

 

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