第1話「都会へ」

 

 彼女の名前は、尚美と言った。彼女は、高校を卒業して地元の四国でアルバイトをしていたのだが、しばらくして大阪にいる姉を頼って、大阪に出て来たのだった。

 
姉の住む1LDKに転がり込んで、一緒に住んでいた。

 

姉は高校を卒業すると、大阪で就職をして安い給料ながらにがんばっていた。

 

初め妹が来ると聞いて、猛反対したけれども、言い出したら聞かない妹を知っていたので、しぶしぶ一緒に住むことにした。

 

しかし、姉も大阪に出て来てから生活には慣れたものの、内心は一人で心細かっただけに気の合う妹と一緒に暮らすのは嬉しかった。

 

尚美は、よくあるお姉ちゃんを見て育ったせいか、要領がよく、よく気がつく子供だった。よく気がつくだけあって、尚美はとても繊細な子供でもあった。

 

尚美は、しばらく家事全般をして過ごした。朝ご飯は作らなかったけれども、晩御飯は彼女が担当し、がんばって料理の腕を奮った。

 

料理の味は、姉妹が食べる分には満足するものだった。

 

 

時間をもてあそぶ様になってきた尚美は、アルバイトを探すことにした。

 

四国にいる時と違って、アルバイトの求人の多さに驚きながらも、居酒屋でアルバイトをすることを決めた。

 

昼間働いている姉と、夕方から出かける尚美との生活は、すぐに生活のリズムがすれ違いになった。

 

尚美は、アルバイト先で知り合った友達と遊ぶ様になって、アルバイト上がりで飲みに行くこともあり、姉が寝ている深夜に帰って来ることが度々あった。

 

それは、姉の睡眠をしばしば妨げるようになり、それがきっかけとなって姉妹ケンカの原因にもなって行った。

 

そんなことが続くと、さすがに尚美も姉と一緒に暮らすことが辛くなってきた。しかし、夜の居酒屋のアルバイト代だけでは、一人暮らしをするお金も貯金もなかった。

 

尚美は、これ以上姉に迷惑を掛けれないと思い、一人暮らしをするために昼もアルバイトをしようと決め、時給の高いアミューズメント、いわゆるパチンコ屋で働き出したのだった。

 

朝9時から5時まで働き、その後夜の居酒屋を掛け持ちするようになって、さすがに尚美も深夜の帰宅はなくなった。

 

尚美にとって、姉の家は寝るためだけの状態になり、一緒によく行っていたショッピングも行かなくなり、姉妹の会話も減って行ったのだった。

 

つづく。

 

 

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